桐生、己の尊厳を守れ(守れない)
遊園地の中央近く、
黒い布で覆われた洋館風のアトラクションが見えてきた。
看板には大きく、
《呪われた洋館:おばけ屋敷》
と書かれている。
◆桐生の心の声、もう限界
(お、おばけ屋敷……
いやまあ、デートといえばおばけ屋敷……だけど……
須磨子様が怖がられたら、俺が守らなければ……
いや待て……俺が怖いんだが……?)
一人で勝手にぐるぐるHP削っている。
須磨子はというと──
「まぁ……素敵ですわね。装飾が凝っております」
完全に観察者。怖い気配ゼロ。
◆桐生、最後の抵抗
「す、須磨子様。
無理に入られなくても……よろしいのでは……?」
須磨子
「? わたくし、怖いものは苦手ではございませんの」
(ですよねーーーーッ!!!
むしろ俺のほうが苦手なんですよねーーーーーッ!!)
桐生、心で土下座。
「桐生様、参りましょう?」
にこ。
(ああああああ“参りましょう”じゃないんだよ俺が“逝く”んだよォ!!)
◆入館
暗い。
その瞬間、桐生の背中に汗が流れた。
須磨子は淡々と進む。
「まぁ……ライトの揺らめき方、工夫されていますね。
吊り下げ方のバランスも絶妙ですわ」
(分析してる場合!?)
突然、壁から白い手形が “ベチャッ” と浮かび上がる。
桐生
「ひ、ひっ──」
言いかけて
全力で飲み込む。
(危ねぇ!!
絶対に“きゃっ”は言わねぇ!!男として死ぬ!!)
須磨子
「あら、手形センサー式なのですわね。よくできています」
(強い……
俺より強い……
いや知ってたけど……!!)
◆絶叫ゾーン
通路の先で、急に白い影が横切る。
桐生、反射的に須磨子の袖をつかみかけ──
ギリッ……!!
空中で手が止まる。
(だめだ!絶対につかむな俺!!
ここで頼ったら男終了!!
紳士失格!!)
須磨子
「桐生様、大丈夫ですか?
お顔が少し……青ざめておられますわ」
(そりゃ青ざめるよ!!?)
「い、いえ……問題ございません……っ」
声が震えている。
◆ラスト演出
棺がガタガタ揺れ、
中からゆっくり“何か”が起き上がる。
須磨子
「……あら。最後は飛び出してくるタイプですのね。
分かりやすくて良い演出です」
冷静。
桐生
「…………っっっっ!!」
(声出たら負けっ……!!くっ……!!)
棺の蓋がバーン!と開き──
ゾンビ役のスタッフ(中の人)が顔を出した瞬間。
須磨子が、ほんのり笑って一言。
「お疲れさまですわ。素敵な演技でした」
ゾンビ役の人、思わず
「ど、どうも……っ」
と素で返す。
桐生
(須磨子様ぁぁ~~~~!!!
あなたはなぜこんな時でも礼儀正しいんですかぁ~~!!
俺の尊厳が粉々になるんですけどぉ~~~!!)
◆出口——桐生、瀕死
外へ出た瞬間、
桐生はその場で膝に手をつき、呼吸を整えた。
「……大、丈夫ですか……?」
須磨子がそっと覗き込む。
至近距離。
清楚な香り。
柔らかな視線。
桐生のHP
3 → 0(気絶寸前)
(だめだ……お化けより須磨子様が強い……)
須磨子
「桐生様、もし怖かったら……
手、つないで差し上げてもよろしかったのですのに」
桐生
「っっっっ!!!???」
死亡。
(それ……い、言うタイミングが……っ……!!
中盤の絶叫地帯で言われたら俺どうなってたんですか……!!)
須磨子
「?」
首をかしげるだけ。




