ふたりの回転、恋の遠心力(ティーカップでございます)
回転木馬を降りたあと、須磨子はふわりと裾を整え、小さな息を吐いた。
馬上でのあの幸福な時間はまだ胸に灯ったままだ。
「次は……どちらに参りましょうか、桐生様?」
微笑まれた瞬間、桐生の HP は 8 から 3 に落ちる。
だが男は耐えた。ナイトたるもの、倒れるわけにはいかない。
「……こちらなど、いかがでしょうか」
桐生が指さした先には──
回る・回す・めちゃくちゃ回る ティーカップ。
須磨子の瞳がぱぁっと輝いた。
「まぁ……可愛らしい乗り物ですわね!
お茶会の気分で楽しめますの?」
(……違う。全然違う……けれど可愛いから何も言えない……)
桐生は胸を押さえながらチケットを差し出し、
2人はカップへと乗り込んだ。
◆回転開始
「では……失礼いたします」
真正面に座る桐生。
微笑む須磨子。
距離は思った以上に、近い。
(ち、近い……!メリーゴーラウンドの時より……!)
(桐生様が……目の前に……っ)
互いに鼓動が跳ね、ティーカップの中央だけ熱を帯びていく。
係員の合図で、ゆっくりと回転が始まった。
「きゃ……! ふふっ、少し揺れますわね」
揺れに合わせてふわりと揺れる髪。
柔らかな微笑。
桐生は、HPバーが赤く点滅しはじめるのを感じた。
「……お、お気をつけて、須磨子様。無理をなさらず……」
「大丈夫ですわ。……ねぇ桐生様」
「は、はい」
「少し……回してみても、よろしいでしょうか?」
「!?!?」
桐生のHPが 1 に落ちる。
「お、お手柔らかに……」
「ふふっ、もちろんですわ」
須磨子が両手でハンドルをそっと握る。
上品に、慎ましく──回す。
その瞬間、ティーカップがくるりと軽く加速した。
「……っ!」
「ふふっ……可笑しゅうございますわね。
まるで舞踏会の回転のようで……!」
(ダメだ……可愛い……!)
桐生は軽く目を伏せ、揺れに身を任せる。
だが、目を閉じても、
真正面の須磨子の笑顔がずっと脳裏に浮かんでくる。
「桐生様。楽しんでいらっしゃいます?」
「も、もちろんです……っ」
「よろしゅうございました……♪」
須磨子がふわりと笑う度、
桐生の恋の遠心力は限界突破しそうだった。
◆回転終了──しかし甘さは続く
アトラクションが止まると、桐生はこっそり深呼吸した。
(……危なかった……もう少しで意識が飛ぶところだった……)
須磨子は頬をほんのり染め、言う。
「桐生様……とても楽しゅうございましたわ」
「……そのように言っていただけて、光栄です」
ティーカップを降りる瞬間、
須磨子はわずかによろけ──
「きゃっ……!」
反射で桐生がそっと手を取った。
触れた瞬間、ふたりの心臓が跳ねる。
(……あ……)
(……て、手が……)
須磨子は真っ赤になり、けれど手を離さなかった。
その手のぬくもりは、
まだ回転し続ける恋の遠心力を静かに伝えてくる。




