回転木馬へ向かうまでの距離
――そして、美佳が泣きそうになりながら仲介を続けた甲斐あって、
ついに須磨子と桐生は“遊園地デート”の約束までこぎつけた。
だがその裏で、美佳のLIMEにはなおも
須磨子親衛隊4人からのスタンプが絶え間なく降り注ぎ、
通知の嵐が止む気配はなかった。
「……すまっち、これもう業務災害だと思うんだけど……」
そうぼやく美佳を横目に、
当の2人はというと──初めてのデートを前に、
それぞれ別の意味で落ち着かなくなっていた。
♡―♡―♡―♡―♡
遊園地のゲート前は、休日らしいざわめきに包まれていた。
家族連れの声、観覧車の機械音、甘いポップコーンの香り。
その中で、桐生は背筋を伸ばし、入口の柱の影に控えていた。
胸元には、すでに購入済みの 1日フリーパスが2枚。
左右どちらに差し出せば自然か、本気で悩んでいる。
(落ち着け……いや落ち着けるか……今日はデート……デート……っ)
そこへ、ふわ、と春の風に乗って響く声。
「……桐生様」
振り向けば、淡い色のワンピースに身を包んだ須磨子が立っていた。
緊張した面持ちだが、瞳の奥にはどこか期待の色がある。
「須磨子様……! 本日は…その……お待ちしておりました」
少しうわずった声。桐生の耳がほんのり赤い。
「わたくしも……楽しみにしておりましたの」
須磨子もまた、手元でバッグの紐をきゅっと握りしめていた。
「ええと……こちら、フリーパスを。予め購入しておきました」
「まあ……! 桐生様が……?」
「はい。長く並ばずに済むように、と思いまして」
差し出されたパスを受け取る須磨子。
その指先が桐生の指先にそっと触れ――
桐生、ほんの一瞬 息止まる。
「……っ!」
須磨子も、頬が桜色に染まった。
「では……まずは、どちらへ参りましょうか……?」
「えっ、あっ、その……須磨子様の行きたいところへ……!」
慌てて視線を泳がせる桐生。
須磨子は遊園地のシンボル方向を見つめた。
「……あの、回転木馬は……乗ってみたいですわ」
「か、回転……木馬……っ! あ、あれですね!」
彼の脳内では「メリーゴーラウンド」が3回転した。
「では、参りましょうか」
須磨子が一歩歩き出す。
桐生もその隣に並ぶが、近すぎても遠すぎてもダメだと
絶妙な距離感で歩こうとして、歩幅がガタつく。
須磨子は、そんな桐生のぎこちない気配に気付いて――
袖をそっとつまんだ。
「……はぐれてしまいませんように」
「っ……!」
桐生、今日2度目の息停止。
遊園地の賑わいの中、
二人を包む空気だけ、ゆっくりと温度が上がっていく。




