桐生サイド:美佳の寿命がまた縮む午後
仕事帰り。
大学前のカフェのテラス席で、桐生は手つかずのブラックコーヒーを見つめていた。
(……昨日、あの場で……手を……)
掌に残る温度が、まだ消えない。
(……迷惑では、なかったのだろうか)
胸の奥で渦巻く不安を抑えきれないまま考え込んでいると──
「チーフぅ〜〜。……顔死んでるけど?」
軽い声。
顔を上げると、美佳が紙カップを持ったまま立っていた。
「美佳……どうしてここに」
「大学前通ったら、悩みオーラ全開のチーフが座ってたからさ」
ずいっと向かいに座る。
「で? また恋の悩み?」
桐生は観念したように息を吐いた。
「……俺は、どうすれば……須磨子様のお隣を、迷惑にならず歩いていられるのか……分からなくて」
「……はぁ?」
美佳の目が細くなる。
「昨日、何があったか覚えてる?」
「もちろんだ。……手を、繋いだ」
それだけで桐生は耳まで赤くなる。
「それが、迷惑ではなかったかと……」
「迷惑どころか、すまっち今朝ね──
“胸がどくどくして落ち着かないですの〜〜!”
って言いながら歩いてたよ?」
「…………!」
桐生の肩がわずかに震えた。
「まさか……須磨子様も……?」
「まんま同じ悩みだよ。
“わたくしなどが隣にいてよいのでしょうか……”ってさ」
「…………っ」
桐生は思わず胸元を押さえた。
「……俺などが、ふさわしいだろうか」
「出たよ、自信ゼロ男子。
昨日あんた、すまっち守ったじゃん。
惚れない理由どこよ?」
桐生は静かに目を伏せる。
「……彼女が嫌でなければ……いいのだが」
「嫌どころか、昨日“手を離したくありませんでしたの……”って言ってたよ」
「…………!」
桐生の指が、かすかに震えた。
「だからさ。
次のデートもちゃんと手、繋ぎなよ?」
「……努めてみる」
「努力じゃなくて自然に伸ばすの!
2人とも“相手が迷惑かも……”って悩むのホントやめて!」
美佳はふっと笑った。
「……幸せになりなよ、2人とも」
「……ありがとう、美佳。
俺も……須磨子様を大切にしたいと思っている」
「はい言質取った〜!」
(まったく……かわいいバカップルだよ。
でも応援しないとは言ってないしね)
夕方の風がふたりの間をそっと撫でた。




