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西園寺須磨子は未だ恋を知らない  作者: 天音紫子(著)×霧原影哉(構成・監修)
第10章 触れた手が、まだ恋を知らなくて
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須磨子、恋を自覚してしまいますの……(美佳、静かに聞き役)

講義を終えて校門を出た須磨子は、


 大学前の歩道のベンチでスマホをいじる美佳の姿を見つけた。


 須磨子に気づくと、美佳はぱっと顔を上げた。


「お、すまっち。……どうしたの? 顔、赤いよ?」


「み、美佳様……少し、お力をお借りしたくて……」


「……また恋の悩み?」


 “また来たよこのお嬢〜”という顔。

 けれど声の奥には、ほんのりとした「しょうがないなぁ」の温度がある。


 須磨子は緊張した様子で、美佳の隣にちょこんと腰を下ろした。


「その……美佳様にだけ、お伝えしたくて……」


「はいはい。今日は何の悩み?

 また“どうやって手を繋げばいいですの”シリーズ?」


「ち、違いますわ! その……昨日の……ことなのです……」


 須磨子は胸の前で両手をぎゅっと重ね、頬を染めた。


「……手を……繋いでいただきましたの……」


「へぇ〜〜……っていや知ってるけどね!?

 その現場、私が作ったんだけど!?!?」


 がっつりツッコむ美佳。

 須磨子は耳まで真っ赤になる。


「そ、それが……その後、わたくし……

 胸がどくどくしてしまって……」


「うんうん。普通そうなるよね。で?」


「きょう……お会いした瞬間から、ずっと落ち着かなくて……

 お声を聞くだけで胸が……わあっと……!」


「……恋だね」


「こ、恋っ……!? やはり……これが……!」


 須磨子は完全に沸騰。

 美佳はこめかみを押さえた。


「いやもう、そこは自覚しよ!?

 昨日まで気付いてなかったの逆にすごいよ、すまっち!」


 だが美佳は、ふう、と息をひとつ吐いた。


「で、今日は何を相談しに来たわけ?

 『手を繋いだ後の正解が分からないですわ』とか?」


「そ、そんな……!

 違いますわ、その……桐生様が……どう思っていらっしゃるのか……」


「ん?」


「わたくしと……こうして手を繋いだり、並んで歩いたりして……

 ……迷惑ではないのかと……」


「いや迷惑どころか、あの人ね――」


 美佳はニヤリと笑う。


「すまっちと同じ悩みを、今日また相談しに来たんだけど?」


「…………っ!」


 須磨子の瞳が一気に潤む。


「本当に……?

 桐生様……わたくしのこと……嫌ではなく……?」


「嫌どころか、喜びすぎて倒れそうだったよ。

 “手を繋げたことが嬉しくて”って」


「……っ……!」


 須磨子は胸に手を当て、震える息を吐いた。


「……わたくし……桐生様のお隣にいて……よろしいのでしょうか……」


「よろしいどころか、求められてるよ。

 ていうかお互い“相手が迷惑かも……”って悩むのやめよ、もう!」


「……美佳様……ありがとうございます……!」


「はいはい。すまっちが幸せならそれでいいよ。

 で? また悩んだら来るんでしょ?」


 須磨子は真っ赤になりながら、小さく微笑んだ。


「……その時は……どうかまた……」


「うん。聞いたげるよ」


 美佳は手をひらひら振って笑う。

 内心では――


(ほんっと……かわいいバカップルだな……

 でも応援しないとは言ってないし……)


 春の風が二人の間をそっと吹き抜けていった。

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