手を繋いでも、まだ恋はぎこちなくて
手を繋いだ翌日。
胸の奥がふわふわと落ち着かないまま、
須磨子は桐生と、ゆっくり公園の遊歩道を歩いていた。
昨日、美佳に強引に結ばれたあの“手”。
今は──自然とは申せませんけれど……
それでも、そっと触れ合っております。
(……まだ、鼓動がおさまりませんわ……)
桐生様の掌はこんなにも温かいのに、
その温かさの意味を考えるたび、胸がどきりと跳ねます。
「……歩幅、大丈夫でしょうか。速くありませんか」
「ええ、大丈夫ですわ。
わたくしのほうこそ……遅く感じられませんか?」
「いえ。むしろ……合わせやすいです」
たったそれだけの会話なのに、
どうしてこんなにも嬉しいのでしょうか。
けれど、嬉しいのに──
まだ上手に目を合わせることができません。
そして隣の桐生様も、わたくしと同じように
なぜか視線を少しそらして歩いていらっしゃいます。
(……同じ気持ち、なのでしょうか……)
ぎゅ、と須磨子は指に力を込めた。
桐生も驚いたように少し息を飲み、それからそっと握り返してくる。
言葉より、手の温もりのほうが雄弁で──
でも、それでもまだ恋はぎこちなくて。
沈黙が続いても、なぜか心地よい午後の風の中。
そのとき──
ベンチの陰に、4つの影が揃ってぴくりと動いた。
「……いま、握り直しましたわよね!?」
「しましたわ! 確実に“ぎゅっ”と……!」
「尊い……!」
「まだ恋人繋ぎではありませんけれど……これはこれで……!」
全員が手にオペラグラスを構え、
“こっそり見守っているつもり”なのだろうが……
黒塗りリムジンの存在感のせいで全然忍べていない。
(※もちろん、2人は気付いていない)
須磨子は深呼吸をして、ほんの少しだけ横顔を盗み見た。
「……桐生様」
「はい」
「また……ご一緒していただけますか?」
桐生は驚いたように目を瞬き、それから静かに微笑んだ。
「……もちろんです。
むしろ、次は……もう少し、お話しできたらと」
「……わ、わたくしも……!」
手を繋ぐことはできたのに、
まだ距離の詰め方がわからない2人。
そのもどかしさすら、午後の光に照らされて
そっと恋の色に変わっていく。
ひとつ前へ。
ゆっくり、ゆっくり。
そんな風に、恋は進んでいくのだった。




