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西園寺須磨子は未だ恋を知らない  作者: 天音紫子(著)×霧原影哉(構成・監修)
第2章 文(ふみ)が届いて、俺の平穏は終わった
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恋文を受け取った俺の静かな混乱

──須磨子からの手紙を届けに来た西園寺家の使者を見送ったあと、

チーフはしばらく封筒をまじまじと眺めていた。


白い厚紙に金の縁取り。

重々しい封蝋。

そして──筆で書かれた美しい文字。


「至急 お目通しいただきたく」


(……至急って言われてもな)


胃の奥がずしりと重くなる。


深呼吸し、そっと封を切った。

中から現れたのは、流れるような達筆の文と──


一首の和歌。


 “声ひとつ

  胸にながれて

   波ひびき

 名もなき想い

  ひそと揺らめく”




「………………」


チーフは、しばらく固まった。


(いや……待て。落ち着け俺。

 これは……どういう……意味……?)


読み直す。


何度読んでも甘い。

何度読んでも危険な方向に解釈できる。


(……やばい。

 いや、やばいどころじゃない)


西園寺家の令嬢から、

“名もなき想いが揺らめいている” とか言われたら──

俺みたいな庶民は返答ひとつで首が飛ぶ。


(どうすんだよ……これ……)


頭を抱えていると、スマホが震えた。


送信者に〈美佳〉と表示されている。

『ちふー!ひま?!』


……嫌な予感しかしねぇ。


でも、他に相談できる相手がいないのも事実だった。


(……背に腹は代えられないか)


チーフは重い指で返信した。


『話がある。会えねぇか』


すぐ既読がついた。


『おっけー!現場急行!』


(しまった……火に油を注いだ気がする……)


――が、その時。


「……くし」


と、小さくくしゃみが出た。


(……まさか、誰かに噂されてるとか?

 いや、そんなバカな──)


チーフは頭を振り、文をもう一度見つめた。


見つめるほどに、胸がザワついてしまう。


(……俺、どうなっちまうんだろうな)



――同じ頃・須磨子


須磨子「……くしゅんっ」


西園寺夫人「まあ須磨子さん。今日は珍しいわね」


須磨子「どなたかが、わたくしの噂を……?

(ほんのり頬が赤い)」

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