恋文を受け取った俺の静かな混乱
──須磨子からの手紙を届けに来た西園寺家の使者を見送ったあと、
チーフはしばらく封筒をまじまじと眺めていた。
白い厚紙に金の縁取り。
重々しい封蝋。
そして──筆で書かれた美しい文字。
「至急 お目通しいただきたく」
(……至急って言われてもな)
胃の奥がずしりと重くなる。
深呼吸し、そっと封を切った。
中から現れたのは、流れるような達筆の文と──
一首の和歌。
“声ひとつ
胸にながれて
波ひびき
名もなき想い
ひそと揺らめく”
「………………」
チーフは、しばらく固まった。
(いや……待て。落ち着け俺。
これは……どういう……意味……?)
読み直す。
何度読んでも甘い。
何度読んでも危険な方向に解釈できる。
(……やばい。
いや、やばいどころじゃない)
西園寺家の令嬢から、
“名もなき想いが揺らめいている” とか言われたら──
俺みたいな庶民は返答ひとつで首が飛ぶ。
(どうすんだよ……これ……)
頭を抱えていると、スマホが震えた。
送信者に〈美佳〉と表示されている。
『ちふー!ひま?!』
……嫌な予感しかしねぇ。
でも、他に相談できる相手がいないのも事実だった。
(……背に腹は代えられないか)
チーフは重い指で返信した。
『話がある。会えねぇか』
すぐ既読がついた。
『おっけー!現場急行!』
(しまった……火に油を注いだ気がする……)
――が、その時。
「……くし」
と、小さくくしゃみが出た。
(……まさか、誰かに噂されてるとか?
いや、そんなバカな──)
チーフは頭を振り、文をもう一度見つめた。
見つめるほどに、胸がザワついてしまう。
(……俺、どうなっちまうんだろうな)
――同じ頃・須磨子
須磨子「……くしゅんっ」
西園寺夫人「まあ須磨子さん。今日は珍しいわね」
須磨子「どなたかが、わたくしの噂を……?
(ほんのり頬が赤い)」




