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それぞれの夜──初めて“手を繋いだ”あとで

◆西園寺須磨子


 屋敷へ戻ると同時に、自室の扉を閉め、

 須磨子はそのままベッドへ倒れ込んでしまった。


 胸の奥で――とくん、とくんと、甘い鼓動が止まらない。


(……桐生様と……手を……)


 思い出した瞬間、頬が熱くなる。


 そっと、右手を胸に当ててみる。


 その温度が、わずかに残っている気がして――

 全身がふわりと浮き上がるような心地がした。


「……こんなにも……嬉しいものなのですのね……」


 目を閉じるだけで、指先のぬくもりが蘇る。

 離したくなかった。もっと触れていたかった。


 その願いに自分で驚きながらも、

 須磨子は枕に顔を埋めて、小さく笑ってしまった。



◆桐生透真


 家に戻り、部屋の灯りをつけた瞬間。


 今日のことが、一気に胸へ押し寄せてきた。


「……手を……繋いでしまった……!」


 顔が熱い。洗面台で顔を洗おうとして――

 ふと右手を見て、動きが止まる。


(……もったいなくて……洗えない……)


 自分で思って、余計に恥ずかしくなった。


 須磨子様が震える指で、自分の掌を握り返してくださった瞬間。

 あの柔らかさと、伝わってきた鼓動。


(……守らなければ。大切にしなければ)


 心の奥に、静かな炎が灯る。



◆美佳


 布団へ倒れ込み、天井を見つめながら叫んだ。


「やっっっっと繋いだよ!!

 ここまで長かったよ!!!!!」


 腕を広げてバタバタしてから、ジュースを飲む。


「ま、でも……嬉しそうだったなぁ……2人とも」


 思い返すだけで頬が緩む。


「よし。次は“恋人繋ぎ”だな……。

 がんばれすまっち、がんばれチーフ……!」


 そう言いながら布団に潜り込み、満足げにため息をついた。



◆4人娘(リムジン内・夜の反省会)


「本日も……尊い光景でございましたわ……!」 「まさか手を……! 指先を……触れ合わせて……!」 「美佳様……あの勇ましさ……まさに救世主……!」 「次こそ……恋人繋ぎを……!」


 4人全員が涙ぐみ、

 大判ハンカチを持ったまま車内で盛大に語り合っている。


「次は……オペラグラス人数分……必須ですわね……」 「ええ、絶対に外せませんわ……!」 「次の進展は見逃しませんわよっ」


 彼女たちの熱量だけが、深夜のリムジンを明るく照らしていた。



◆そして──


 須磨子と桐生は、

 互いが同じ夜、同じ場所で、同じように胸を高鳴らせていることなど

 まだ知らない。


 ――ただひとつ。


 初めて繋いだ手のぬくもりだけが、

 2人の心にそっと灯り続けていた。

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