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美佳、限界突破(物理)

 その瞬間、美佳の中で何かが完全にぷつんと切れた。


「……お前ら……」


 声が震えている。怒りで。


「手を繋げやああああああああ!!!!!」


 叫ぶや否や、美佳は勢いよく茂みから飛び出した。


「み、美佳!?」

「美佳様!?」


 須磨子と桐生が同時に振り返ったが──遅い。


「いい加減にしろぉぉぉ!!」


 美佳は2人の間に割り込み、

 右手で須磨子の手を、左手で桐生の手をつかみ、

 そのまま ガッ! と強引に握らせた。


「はい手ぇ繋いだ!! 離すな!!!!!」


 一瞬の沈黙。


「きゃあああああああっ!!」須磨子

「うわあああああああっ!!」桐生


 2人の悲鳴が見事にハモる。


 だが美佳は容赦しない。


「そのまま歩け!! 振り払うな!!

 今日はもう離すんじゃねぇぇぇ!! わかったなぁぁぁ!?」


 2人は真っ赤になり、震えながら小さく返事した。


「「……は、はいっ……!」」


 美佳は大きく息を吐き、空に向かって叫んだ。


「ったく……! この……! もどかしコンビが……!!」


 そして背後の茂みから、かすかな悲鳴が4つ。


「きゃああっ!」

「こ、これは……尊い……!」

「ついに……ついに……!」

「……救世主……!!」


 リムジンの中で4人娘が全員号泣していたが、

 もちろん当の本人たちには聞こえていない。



 須磨子は顔を真っ赤にして、そっと桐生の掌を握り直した。


 ぎゅ。

 強引にはじまったはずのその手つなぎは、

 いつしか優しい温度に変わっていく。


 鼓動の音が、互いの掌まで伝わりそうだった。


「……あの……桐生様……」


「……はい……」


「こ、こんなに……手を繋ぐというのは……

 胸が高鳴るものなのですの……?」


 桐生は真っ赤になりながら、必死に言葉を探す。


「……ええ。その……

 わ、私も……同じでして……

 須磨子様と手を……繋げたことが……嬉しくて……」


 須磨子の指先が、びくりと震えた。


「……わ、わたくしも……!

 桐生様と、こうして触れていただけるなんて……

 夢のようで……」


 視線を合わせられないのに、

 それでも絶対に離したくない2人。


 距離は近いのに、遠回りし続けているような──

 甘くて苦しい沈黙が落ちた。


 2人の歩幅が、ゆっくりと揃う。


 美佳は遠くから腕を組んで叫んだ。


「よーし!! そのままデート続行!!

 帰ってくるまで離すんじゃねぇぇぇ!!」


 こうして──

 ようやく、ようやく、須磨子と桐生は初めて手を繋いだ。



 ──そして茂みの向こう。

 黒塗りリムジンの中では、4人娘が揃って号泣していた。


「み、美佳様とおっしゃいましたわよねっ……!?」

「り、立ち向かっていかれたわ……お二人の背中を押して……!」

「なんて……なんて尊い働き……!」

「グッジョブですわっ、美佳様ぁぁぁ!!」


 全員がハンカチを握りしめ、肩を震わせながら窓に張り付いている。


「見ました!? あの鮮やかな手際!!」

「強い女性って……本当に素敵……!」

「まるで須磨子様の“影の守護者”ですわ……!」

「わたくし、美佳様のファンになってしまいそう……!」


 称賛、熱狂、崇拝──

 もはや小さな宗教だった。


「次こそ……差し入れなどお渡ししたく……!」

「ええ! 感謝をお伝えしませんと……!」

「そしてまた背中を押していただきたく……!」

「……あの。やっぱり次こそオペラグラス人数分必要ではなくて?」


「「「「それですわ!!!」」」」


 茂みの奥で沸き上がる歓声。

 もちろん2人も美佳も気付かない。

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