影の応援団(忍べていませんわよ?)
その日の午後。
大きな公園の遊歩道。
その駐車場で──ある光景を、黒塗りリムジンの車内から4つの影が凝視していた。
「……見えまして?」 「見えましてよ綾乃様……あれは……間違いなく おデート ですわ!」 「須磨子様と、あの庶民の殿方……♡」 「きゃああ……っ! 進展していらっしゃいますわ……!」
窓に4つの顔を並べて覗き込む令嬢4人。
忍んでいるつもりなのだろう。
しかし──黒塗りリムジンが目立ちすぎて、
“尾行”として成立していない。
「……ところで杖香様」 「なんですの瑞帆様」 「わたくしたち……気付かれていないと思っておりますけれど……」
「ええ。絶対にバレていますわね、これ。」
全員が小さくうなずいた。
だが──視線は窓に貼り付いたまま。
「ほら見て! 本日も……手をお繋ぎになっていませんわ!」 「まぁ……あれほど相思相愛に見えますのに……どうして……!」 「尊すぎて……逆に直視できませんわ……!」 「わたくし鼓動が早くて、さっきから倒れそうです……!」
4人娘は完全に“見守る母”と化していた。
加奈子がぽつりと呟く。
「……須磨子様……ほんとうに可愛らしい方ですわね……」
他の3人もほろりとした目になる。
「ええ……あの日の西園寺夫人の“ご指導”を思えば……」 「むしろ、あれほど凛とした方だからこそ魅力的なのですわね」 「強くて……気品があって……憧れてしまいますわ」
4人の視線に、自然と羨望が混じる。
「……それに、あの殿方も悪くありませんわ」 「須磨子様をあれほど大切に……!」 「早く……手を繋いで差し上げればよいものをっ!」
「もどかしいですわ!!」×4
車内が震えた。
そして──運命の瞬間が訪れる。
「あっ……! ちょ、ちょっと見まして!?
いま……指先が……触れましたわ!!」
「きゃあああああ!!!」 「尊いっ!!!」 「今日こそ……今日こそ行けますわ……!!」 「ついに……ついに恋人繋ぎ……!!?」
爆発する期待。
その瞬間──
須磨子は真っ赤になって手を引っ込め、
桐生もまた気まずそうに視線をそらした。
「っっ……!!!」
「「「「そこで!! そこで引くのですか!!!」」」」
リムジンが揺れるほど座席を叩く4人。
「……も、もう見ていられませんわ……」 「どちらも不器用すぎますのよ……」 「応援したい、でも……! この胸のもどかしさは……!」
「…………あの。次から、オペラグラス人数分 必要ではありません?」
「「「「あっ……!!」」」」
全員がうなずいた。
「次は……もっと近くで応援いたしましょう……!」 「もちろん、忍んで……」 「ええ、忍んで……」 「……今度こそ忍べますわよね?」
「「「…………(自信はない)」」」」
こうして──
須磨子と桐生は知らぬまま、
密かな(全然密かでない)応援団が誕生したのであった。




