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桐生サイド

 ……今日も、手を繋げなかった。


 別々の場所からの帰り道。

 ふとした拍子に須磨子様のお姿を見かけたものの、声を掛ける勇気は出せなかった。


(あと一歩、手を伸ばせばいいだけだというのに……)


 胸がきゅうと縮こまる。


アルバイトを終えて大学近くの通りを歩いていたところ、

道端の自販機の前でジュースを飲む美佳と鉢合わせた。


「チーフ。なんか顔死んでるけど?」


「……そう見えるか」


「見えるというか、滲み出てるよ。何があった?」


 しばらく迷ってから、透真は小さく息を吐いた。


「……俺は、どうやって手を繋げばいいのだろうな」


「…………は?」


 美佳の目が、ぽかんと見開かれる。


「いや、須磨子様にだ。

 怖いわけじゃない。ただ……無礼になるのではと考えると、どうも踏み出せなくて」


「……え、ちょ……ちょっと待って」


 美佳はこめかみを指で押さえ、深く深くため息をついた。


「すまっちはね?

 “手も繋いでくださらないのです……”って悩んでたんだよ?」


「――!」


 桐生の胸が跳ねた。


「嫌われているのでは、と……?」


「そう言ってたよ。

 で、今度はチーフまで“繋げない……”って相談してきたわけね?」


 美佳は頭を抱え、そして一定の悟りを得た顔になった。


「……あーもう!! 2人して何なの!?

 このままだと私の寿命が縮むんだけど!!」


「す、すまない……」


「謝らなくていいから!

 いいから今度こそ手繋げ!! ほんと頼む!!」


 叫んでその場に座り込む美佳。


 桐生は顔を赤くしながら、静かに拳を握った。


(須磨子様……そう思っていらっしゃったのか……

 なら――なおのこと、勇気を出さねばならない)


 胸奥で、ひとつ小さな火が灯るようだった。

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