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西園寺夫人の密かなエール
殿方たちが青ざめた顔で静まり返ったあと、
西園寺夫人はふう、と息をひとつだけ吐き、扇子を優雅に閉じた。
「……まったく。品位とは、己の振る舞いにこそ宿るものですわね」
どこか冷たく、しかし誇り高い声音でそう言い残し、
夫人は回れ右をして午後の光へと歩き出す。
けれど、足音が遠のくにつれ――その横顔は、ふっと柔らかくほころんだ。
(須磨子さん……あなたはわたくしの誇りですわ)
(どうか迷わずに。
あなたが選んだ“想い”を、胸を張って進みなさいませ)
風に日傘の縁が揺れ、衣擦れが静かに響く。
娘には聞こえない、小さな、小さな声。
「……応援しておりますわよ。――おほほ、母は味方ですもの」
そう告げて、夫人は誰もいない回廊を華麗に歩き去った。
ごきげんよう、と、春風のように。




