令嬢4人のお茶会 〜陰湿バトンリレー地獄〜
東屋では、絹のリボンと香水をふりまくように、
4人の令嬢が扇子で口元を隠しながら 慇懃無礼スピード噂話リレー を展開していた。
「ご存知? 西園寺須磨子様、護身術を学んでいらっしゃるそうでしてよ」
「殿方に守っていただけない方は大変ですわねぇ」
「まあ、護身術だなんて……お育ちが知れますわね。
ねえ、杖香様、そう思いませんこと?」
「わたくしはただお話を伺っただけでしてよ?
そのようにお考えなのは、綾乃様ではなくて?」
「まあまあ、お二人とも。
でも殿方を追いかけるために武術など嗜むなんて……ねえ、可奈子様?」
「わ、わたくし!?
いえいえ、わたくしはただ……その……
皆さまが仰っていたお話を繰り返しただけでしてよ?」
4人はそれぞれ、
“わたしは悪くないバトン”を巧みに押し付け合いながら
くすくすと扇子の影で笑い合う。
陰湿なのに優雅。
優雅なのに下品。
その上から──ふわりと涼しい日傘の影が落ちた。
「まあ。とてもお楽しそうでいらっしゃいますのね。
わたくしもご一緒させていただいてもよろしくて?」
「「「「っ!?」」」」
振り返った令嬢たちは、一斉に凍りつく。
そこに立っていたのは、完璧な装いと微笑を湛えた 西園寺夫人 だった。
「こ、これは……綾乃様が仰ったお話をわたくしが誤って……!」
「い、いえ!? わたくしは瑞帆様から伺っただけでしてよ!?」
「と、とんでもございませんわ!
わたくしは加奈子様が……!」
「わ、わたくし!?
ぜ、全部、そ、そちらのお三方が……!」
東屋の中で4人がぐるぐると責任をなすりつけ合う姿は、
もはや喜劇である。
夫人は優雅に微笑みながら、ゆっくりと視線を巡らせた。
「まあ。どなたが仰ったかなど、取るに足りませんことよ」
そこで──ふ、と微笑の角度が変わる。
「ただ一つだけ、わたくしから申し上げてもよろしくて?」
「「「「……はい……」」」」
そして落とす。
「自らを鍛えてまで想いを寄せる殿方が……
あなた方には、いらっしゃいませんのね?
そしてまた、同じように思ってくださる殿方も」
憐れみを帯びた視線。
言葉より痛い、“事実という刃”。
令嬢たちは紅茶より冷えた顔色で、口をぱくぱくとさせるだけだった。
「まあ、妬まれるのは慣れておりますけれど……
噂話はどうか、心の内だけにしてくださいませね」
にこり。
「では、ごきげんよう」
日傘がひらりと翻り、夫人は 華麗に 風のように去っていった。
残された令嬢たちはただ──呆然と座り込むのみ。




