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西園寺須磨子は未だ恋を知らない  作者: 天音紫子(著)×霧原影哉(構成・監修)
第8章 西園寺夫人、華麗に社交界を鎮める午後
31/80

令嬢4人のお茶会 〜陰湿バトンリレー地獄〜

東屋あずまやでは、絹のリボンと香水をふりまくように、

4人の令嬢が扇子で口元を隠しながら 慇懃無礼スピード噂話リレー を展開していた。



「ご存知? 西園寺須磨子様、護身術を学んでいらっしゃるそうでしてよ」


「殿方に守っていただけない方は大変ですわねぇ」


「まあ、護身術だなんて……お育ちが知れますわね。

 ねえ、杖香様、そう思いませんこと?」


「わたくしはただお話を伺っただけでしてよ?

 そのようにお考えなのは、綾乃様ではなくて?」


「まあまあ、お二人とも。

 でも殿方を追いかけるために武術など嗜むなんて……ねえ、可奈子様?」


「わ、わたくし!?

 いえいえ、わたくしはただ……その……

 皆さまが仰っていたお話を繰り返しただけでしてよ?」


4人はそれぞれ、

“わたしは悪くないバトン”を巧みに押し付け合いながら

くすくすと扇子の影で笑い合う。


陰湿なのに優雅。

優雅なのに下品。


 その上から──ふわりと涼しい日傘の影が落ちた。


「まあ。とてもお楽しそうでいらっしゃいますのね。

 わたくしもご一緒させていただいてもよろしくて?」


「「「「っ!?」」」」


 振り返った令嬢たちは、一斉に凍りつく。


 そこに立っていたのは、完璧な装いと微笑を湛えた 西園寺夫人 だった。


「こ、これは……綾乃様が仰ったお話をわたくしが誤って……!」


「い、いえ!? わたくしは瑞帆様から伺っただけでしてよ!?」


「と、とんでもございませんわ!

 わたくしは加奈子様が……!」


「わ、わたくし!?

 ぜ、全部、そ、そちらのお三方が……!」


東屋の中で4人がぐるぐると責任をなすりつけ合う姿は、

もはや喜劇である。


 夫人は優雅に微笑みながら、ゆっくりと視線を巡らせた。


「まあ。どなたが仰ったかなど、取るに足りませんことよ」


 そこで──ふ、と微笑の角度が変わる。


「ただ一つだけ、わたくしから申し上げてもよろしくて?」


「「「「……はい……」」」」


 そして落とす。


「自らを鍛えてまで想いを寄せる殿方が……

 あなた方には、いらっしゃいませんのね?

 そしてまた、同じように思ってくださる殿方も」


 憐れみを帯びた視線。

 言葉より痛い、“事実という刃”。


 令嬢たちは紅茶より冷えた顔色で、口をぱくぱくとさせるだけだった。


「まあ、妬まれるのは慣れておりますけれど……

 噂話はどうか、心の内だけにしてくださいませね」


 にこり。


「では、ごきげんよう」


 日傘がひらりと翻り、夫人は 華麗に 風のように去っていった。


 残された令嬢たちはただ──呆然と座り込むのみ。

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