表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
30/80

息を合わせて──ふたりの小さな反撃

 ならず者のひとりが石畳につまずき、


 もうひとりは盛大に回転しながら転がっていきました。


「ま、まあ……?」


 あまりに予想外の光景に、わたくしは思わず声を漏らしてしまいました。


 2人のならず者は情けない悲鳴だけ残し、


 ばたばたと路地の奥へと逃げ去っていきます。


 残された静けさの中で、


 わたくしとチーフ様はしばし呆然と立ち尽くしておりましたが──


 ふと、お互いの視線が重なった瞬間。


「……ぷっ」


「……ふふっ」


 こらえきれず、同時に笑いがこぼれてしまいました。


 緊張の糸が切れたのかもしれません。


 さきほどまで胸を張って構えていたわたくしも、思わず口元を押さえてしまいます。


「須磨子様……お見事でした」


「まあ……チーフ様こそ、華麗に避けていらっしゃいましたわ」


 ゆるむ空気の中、チーフ様がふと真顔になり、わずかに姿勢を正されました。


「……そういえば、まだきちんと申し上げておりませんでしたね」


「?」


 その声音は静かで、けれどどこか決意を帯びていて。


 わたくしは自然と息を呑みました。


「わたしは──

 桐生 透真 と申します。

 あらためて……どうぞ、よろしくお願いいたします」


「……まあ……っ」


 胸の奥が、きゅうん、と甘くしめつけられました。


 ずっと“チーフ様”と呼んできた方が、


 こんなにも丁寧に、こんなにも真っ直ぐにわたくしへ名乗ってくださるなんて。


「こちらこそ……よろしくお願いいたしますわ、桐生様」


 そう言った瞬間、


 夕陽がちょうど2人のあいだに差し込み、空気がほんのり染まりました。


 ならず者が去り──


 わたくしたちの距離は、ほんの一歩だけ近づいた気がいたしました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ