息を合わせて──ふたりの小さな反撃
ならず者のひとりが石畳につまずき、
もうひとりは盛大に回転しながら転がっていきました。
「ま、まあ……?」
あまりに予想外の光景に、わたくしは思わず声を漏らしてしまいました。
2人のならず者は情けない悲鳴だけ残し、
ばたばたと路地の奥へと逃げ去っていきます。
残された静けさの中で、
わたくしとチーフ様はしばし呆然と立ち尽くしておりましたが──
ふと、お互いの視線が重なった瞬間。
「……ぷっ」
「……ふふっ」
こらえきれず、同時に笑いがこぼれてしまいました。
緊張の糸が切れたのかもしれません。
さきほどまで胸を張って構えていたわたくしも、思わず口元を押さえてしまいます。
「須磨子様……お見事でした」
「まあ……チーフ様こそ、華麗に避けていらっしゃいましたわ」
ゆるむ空気の中、チーフ様がふと真顔になり、わずかに姿勢を正されました。
「……そういえば、まだきちんと申し上げておりませんでしたね」
「?」
その声音は静かで、けれどどこか決意を帯びていて。
わたくしは自然と息を呑みました。
「わたしは──
桐生 透真 と申します。
あらためて……どうぞ、よろしくお願いいたします」
「……まあ……っ」
胸の奥が、きゅうん、と甘くしめつけられました。
ずっと“チーフ様”と呼んできた方が、
こんなにも丁寧に、こんなにも真っ直ぐにわたくしへ名乗ってくださるなんて。
「こちらこそ……よろしくお願いいたしますわ、桐生様」
そう言った瞬間、
夕陽がちょうど2人のあいだに差し込み、空気がほんのり染まりました。
ならず者が去り──
わたくしたちの距離は、ほんの一歩だけ近づいた気がいたしました。




