ならず者、性懲りもなく──わたくし、参りますわ!
デートの雰囲気はふわふわ甘く、
2人の歩幅もいつもよりほんの少し近い。
そんな空気が ふっ と張りつめたのは──
曲がり角の向こうから、聞き覚えのある荒い声が響いた時だった。
「よぉ……また会ったな、お嬢さんよ」
振り返ったチーフの表情が険しくなる。
須磨子様も、胸元にそっと手を当てながら言葉を絞り出された。
「……あなたがた……性懲りもなく……」
ならず者たちは前より人数が増えていた。
しかも今日は、妙に自信ありげにニヤついている。
「前はよくもやってくれたな……今日は“仲間”連れてきてんだよ」
チーフが須磨子様の前に立つ。
「須磨子様、後ろへ」
「いいえ」
須磨子様は一歩、前へ出た。
控えめだった面差しが、凛と引き締まる。
胸の奥から、静かで強い炎のようなものが宿る。
「チーフ様……わたくし、逃げませんわ」
そして──
「今こそレッスンの成果を披露する時ですわ!」
ぱぁん、と空気が弾けたように感じた。
ならず者たちは一瞬だけ怯みつつも、
「はっ、何ができるってんだよ!」
と吠える。
須磨子様は姿勢を構え、
橘先生から教わった基本姿勢を美しい型で取った。
裾がふわりと揺れる。
その姿は恐れ知らずの令嬢というより──
もはや舞台に立つ戦う姫君。
「……お覚悟っ!」
次の瞬間──
ならず者Aが吠えついてきた手を、
須磨子様は身をひねって ひらり とかわし、
「きゃっ!?」と悲鳴を上げたのは相手の方だった。
勢い余って電柱に自分でぶつかる。
(自滅1号)
チーフがすぐさま2人目の腕を取って投げるようにいなし、
須磨子様が横から足払い──
相手は舗道に ずざぁぁっ とスライドして転がる。
(自滅2号)
3人目は、2人の息ピッタリの動きに青ざめ、
「ま、待て待て!話し合いを──」
と言いながら自分で段差に躓き、
(自滅3号)
須磨子様は息を整えて振り返り、
「チーフ様……わたくし……!」
チーフは軽く息を弾ませながら微笑む。
「素晴らしい動きでした、須磨子様。 レッスンの成果……確かに見せていただきました」
2人が触れそうな距離まで歩み寄る。
胸の奥がまだ静かに高鳴っていて、指先が、かすかに震えている。
そのタイミングで──
「無視すんなぁぁぁ!!
俺らまだやる気あるんだよ!!」
最後の一人が吠えた。
須磨子様とチーフが同時に振り返る。
「まだこりていなかったのですか?」 「……まだ痛めつけて欲しいのですか?」
ならず者「ひぃぃぃっ!!! ご、ごめんなさーーーい!!」
全力疾走で逃げ去った。
静寂。
風がふわりと2人の間を通る。
須磨子はそっと胸に手を当て──
ほんのり震える声で言った。
「チーフ様のために……がんばりましたの……」
チーフは、わずかに目を伏せ、
「……俺も、あなたを守るために鍛えました」
その一瞬だけ、
2人の距離はどちらからともなく縮まった。
甘く、静かに、決定的に。




