静かに重なる想い──それぞれが歩む強さへ
初めての護身術レッスンを終えてから数日。
須磨子は毎日のように、屋敷の一室で橘先生から指導を受けていた。
「腰が浮いています、須磨子様。もう少し重心を落として」
「は、はいっ……!」
汗が首筋をつたう。
けれど苦しいとは、少しも思わなかった。
(わたくし……もっと強くなりとうございますわ……
“あの方”のお側で、足手まといにならぬように……)
「よろしい。動きに迷いがなくなってきましたね」
先生の言葉に、胸がふわっと温かくなる。
(チーフ様……次に何か起きたときは……
どうか、わたくしにも力を尽くさせてくださいませ……)
同じ頃。
駅前の小さな体育館併設ジム。
仕事終わりの時間帯、客もまばらなトレーニングルームの片隅で、
チーフはひとり、黙々と腕立て伏せを続けていた。
汗が床に落ちる。
呼吸が荒れても、彼は止まらない。
(……須磨子様のために、だ)
握った拳に力がこもる。
(あの日、抱えて逃げるだけで精一杯だった。
あれでは……守れない)
悔しさが、静かに熱に変わっていく。
腕立て伏せ、懸垂、体幹。
学生時代に叩き込まれた基礎メニューを次々とこなす。
(次こそは。
必ず……)
(……護身術、か)
美佳から聞かされた言葉が、頭から離れない。
『あの方のために強くなりとうございます、ってね!』
「……須磨子様が、そこまで……」
息を吐くたび、腕が震える。
それでも止める気はなかった。
(俺も鍛え直さねば。
あの日……あの方を抱えて逃げるだけで精一杯だった……)
悔しさは、静かに熱へと変わる。
(次こそは──。
どんな相手が来ようと、俺が須磨子様を守る)
―― 同じ空の下。
別々の場所で励んでいるのに、
2人の胸に浮かぶ想いは驚くほど同じだった。
『あの方のために』
『あの人を守れるように』
同じ祈りを抱えながら──
互いがそのことを知るのは、まだ少し先のこと。




