美佳、尾行バレる。なお開き直る。
昼下がり。
ファストフード店の裏口横、従業員用の休憩スペースで美佳は缶ジュースを開けていた。
その背後に──
音もなく影が落ちた。
「美佳。少し、いいか」
「ひゃっ!? ちょ、ちょっと! 足音! 足音鳴らしてよチーフ!」
美佳が振り向く。
しかしその笑顔は、どこか張りついたようにぎこちない。
一方、チーフの表情は静かだった。
ただ──その静けさの“温度”が、いつもと違う。
「……お前、先日。
須磨子様とご一緒の折──尾行していただろう」
「……な、なんのことかなぁ~~??
わ、わっち全然知らないな~~?(目が泳ぎ散らかす)」
逃げ腰になった瞬間──
低く抑えられた声が、美佳の足を床に縫い付けた。
「美佳 さん」
「ひっ……!!?」
たった一語で、空気が変わる。
美佳は肩をすくめ、完全に観念したように手を上げた。
「……ご、ごめん!! 尾行してた!!
だって心配だったんだよ!! すまっちすぐ迷子になるし!!
あとなにか起きたら絶対一人で逃げないタイプじゃん!!」
「心配してくれた気持ちは、わからなくもない」
「ほ、ほんと!? じゃあ──」
「だが。だからといって尾行を正当化するのは別だ。やめろ」
「……はい」
しゅん、と萎む美佳。
しかし突然「あっ」と顔を上げた。
「でもねチーフ!
すまっち言ってたよ? “護身術習い始めましたの”って!」
「……何?」
「チーフのために強くなりたいってさ!
“あの方をお守りできるように”って!」
チーフの表情が、ほんのわずか揺れた。
それに気づいた美佳はニヤリ。
「ね? 似た者同士なんだよ。
あんたが筋トレで悩んでるの、すまっちだって同じなんだから」
ひらひら手を振って去りながら、
最後に小声でぼそっと。
「……ホント、あとは手ぇ繋ぐだけじゃん。もどかしいわぁ……」
去ってゆく軽快な足音。
その残響だけを背に、チーフはしばし動けなかった。
(……須磨子様。そこまで……)
胸の奥で、何かが静かに形を持ちはじめていた。




