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西園寺須磨子は未だ恋を知らない  作者: 天音紫子(著)×霧原影哉(構成・監修)
第6章 わたくし、強くなりとう存じます
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美佳、尾行バレる。なお開き直る。

 昼下がり。

 ファストフード店の裏口横、従業員用の休憩スペースで美佳は缶ジュースを開けていた。


 その背後に──

 音もなく影が落ちた。


「美佳。少し、いいか」


「ひゃっ!? ちょ、ちょっと! 足音! 足音鳴らしてよチーフ!」


 美佳が振り向く。

 しかしその笑顔は、どこか張りついたようにぎこちない。


 一方、チーフの表情は静かだった。

 ただ──その静けさの“温度”が、いつもと違う。


「……お前、先日。

 須磨子様とご一緒の折──尾行していただろう」


「……な、なんのことかなぁ~~??

 わ、わっち全然知らないな~~?(目が泳ぎ散らかす)」


 逃げ腰になった瞬間──

 低く抑えられた声が、美佳の足を床に縫い付けた。


「美佳 さん」


「ひっ……!!?」


 たった一語で、空気が変わる。

 美佳は肩をすくめ、完全に観念したように手を上げた。


「……ご、ごめん!! 尾行してた!!

 だって心配だったんだよ!! すまっちすぐ迷子になるし!!

 あとなにか起きたら絶対一人で逃げないタイプじゃん!!」


「心配してくれた気持ちは、わからなくもない」


「ほ、ほんと!? じゃあ──」


「だが。だからといって尾行を正当化するのは別だ。やめろ」


「……はい」


 しゅん、と萎む美佳。

 しかし突然「あっ」と顔を上げた。


「でもねチーフ!

 すまっち言ってたよ? “護身術習い始めましたの”って!」


「……何?」


「チーフのために強くなりたいってさ!

 “あの方をお守りできるように”って!」


 チーフの表情が、ほんのわずか揺れた。

 それに気づいた美佳はニヤリ。


「ね? 似た者同士なんだよ。

 あんたが筋トレで悩んでるの、すまっちだって同じなんだから」


 ひらひら手を振って去りながら、

 最後に小声でぼそっと。


「……ホント、あとは手ぇ繋ぐだけじゃん。もどかしいわぁ……」


 去ってゆく軽快な足音。

 その残響だけを背に、チーフはしばし動けなかった。


(……須磨子様。そこまで……)


 胸の奥で、何かが静かに形を持ちはじめていた。

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