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西園寺須磨子は未だ恋を知らない  作者: 天音紫子(著)×霧原影哉(構成・監修)
第6章 わたくし、強くなりとう存じます
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わたくし、まずは学びの第一歩でございますの

 ──わたくし、強くなりとう存じます。

 決意が胸に落ちた瞬間、

 心の景色がひとつ、変わったように思った。


 朝の身支度を整えた須磨子は、

 西園寺夫人が常用する小さな応接室へ向かった。


 廊下に差す光はさわやかで、

 けれど須磨子の心は妙に落ちついていた。


 ノックすると、西園寺夫人が静かに微笑む。


「まあ、須磨子さん。朝から珍しいこと」


「お母様……わたくし、お願いがございますの」


「お願い?」


「わたくし──

 護身術を学びとう存じます。」


 西園寺夫人の動きがぴたりと止まった。

 次にふわりと目を細める。


「……昨日のこと、でしょう?」


「……はい」


 逃げずに、視線をそらさず、

 須磨子は西園寺夫人の前にまっすぐ立った。


「恐ろしゅうございました。

 ですが、それ以上に……悔う気持ちがございましたの。

 あの方を護りたいと願ったのに、何も出来ませんでした。

 ですから──強くなりとうございます」


 西園寺夫人はふっと息をつき、

 須磨子の両肩にそっと手を置く。


「……ええ。そう思うのならば、良い先生をつけましょう」


「本当でございますの?」


「ええ。あなたが“護りたい人”のために強くなりたいのなら……母として、断る理由がありませんわ」


 胸の奥がじわりと温かくなった。


「ありがとうございます、お母様……!」


「ただし須磨子さん。ひとつだけ覚えておきなさい」


「?」


「強さとは、腕力だけではございませんのよ。

 自分の足で立とうとする、その意志こそが強さですわ。

 昨日のあなたは、もうその第一歩を踏んでいます」


 その言葉に、胸がきゅっと締めつけられた。

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