わたくし、まずは学びの第一歩でございますの
──わたくし、強くなりとう存じます。
決意が胸に落ちた瞬間、
心の景色がひとつ、変わったように思った。
朝の身支度を整えた須磨子は、
西園寺夫人が常用する小さな応接室へ向かった。
廊下に差す光はさわやかで、
けれど須磨子の心は妙に落ちついていた。
ノックすると、西園寺夫人が静かに微笑む。
「まあ、須磨子さん。朝から珍しいこと」
「お母様……わたくし、お願いがございますの」
「お願い?」
「わたくし──
護身術を学びとう存じます。」
西園寺夫人の動きがぴたりと止まった。
次にふわりと目を細める。
「……昨日のこと、でしょう?」
「……はい」
逃げずに、視線をそらさず、
須磨子は西園寺夫人の前にまっすぐ立った。
「恐ろしゅうございました。
ですが、それ以上に……悔う気持ちがございましたの。
あの方を護りたいと願ったのに、何も出来ませんでした。
ですから──強くなりとうございます」
西園寺夫人はふっと息をつき、
須磨子の両肩にそっと手を置く。
「……ええ。そう思うのならば、良い先生をつけましょう」
「本当でございますの?」
「ええ。あなたが“護りたい人”のために強くなりたいのなら……母として、断る理由がありませんわ」
胸の奥がじわりと温かくなった。
「ありがとうございます、お母様……!」
「ただし須磨子さん。ひとつだけ覚えておきなさい」
「?」
「強さとは、腕力だけではございませんのよ。
自分の足で立とうとする、その意志こそが強さですわ。
昨日のあなたは、もうその第一歩を踏んでいます」
その言葉に、胸がきゅっと締めつけられた。




