わたくし強くなりとう存じます
翌朝。
目覚めた瞬間、須磨子の胸の奥に、じんわりとした熱がよみがえった。
──昨日の、あの出来事。
思い返すだけで、布団の中で身じろぎしてしまう。
(わたくし……なんてことを……)
チーフの前へ思わず踏み出してしまったこと。
ショルダーバッグを振りかざしたこと。
ヒールを構え、「退きませんことよ!」と言い切ったこと。
いま思えば、どれも淑女らしい振る舞いとは言えない。
ただ──
気がついたら、身体が勝手に動いていたのだ。
(チーフ様に、触れさせたくなかった……)
そう胸の内でぽつりと零れた瞬間、
頬に熱がのぼり、枕に顔を埋めた。
「……ああ、思い返すほど恥ずかしゅうございます……」
でも、それでも。
あのとき確かに、誰かを守りたいと思った気持ちは本物で。
そのことだけは、否定できず──
否定したくもなかった。
ただ、わたくしは。
大切な人を前に、逃げることができなかった。
それだけなのだ。
けれどやはり、昨日の一連の出来事を思い返すと、
胸の奥がくすぐったくて、落ち着きようもなく。
「……護身術……やはり、習った方がよろしいのかしら……?」
ぽつりと呟いた声が、意外なほど真剣だった。
あんな出来事、もう二度と起きてほしくはない。
でももし、また誰かを守らなければならないときが来たなら──
今度は、あのように無様に取り乱したくないから。
(……もっと、強くなれたら……)
小さく息を吸い込み、背筋を伸ばす。
恥ずかしさで転がりたい気持ちも、
胸の奥の温かなざわめきも、
すべて抱えたまま。
それでも、須磨子は昨日より一歩だけ前へ進みたいと、
そう静かに願ったのだ。




