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西園寺須磨子は未だ恋を知らない  作者: 天音紫子(著)×霧原影哉(構成・監修)
第5章 恋は試される──午後の小さな嵐のなかで
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わたくし、なんてことを……!(夜の羞恥悶絶)

 自室に戻り、扉が静かに閉まった瞬間──

 張りつめていたものが、ふっとほどけた。


「……わ、わたくし……あの場で……」


 頬が、急に熱を帯びる。


 ショルダーバッグを振りかざし、

 さらには靴を脱いでヒールを構えて──

 あろうことか、あのきれいな声の前で

「退きませんことよ!」

 などと堂々と言い切ってしまったのだ。


「は、はしたない……いくら大切な方をお守りしたかったとはいえ……!」


 膝の上でぎゅっと両手を握りしめる。


 須磨子の中では、

 あれは必死の思いから自然と出た行動だったが──


(チーフ様は……どう思われたのかしら……)


 その瞬間、胸の奥が

 きゅう、と締めつけられる。


「きゃああああああ……!」


 思わずベッドに倒れ込み、枕に顔を押しつけた。

 恥ずかしさで全身が弾けそうだ。


 しかも──


「……よりによって、ストッキングまで伝線して……!」


 あれでは、まるでお転婆どころか

 育ちの良い令嬢としてどうなのか、と

 誰が見ても思ってしまうはず……。


 なのにチーフは、

 自分を責めるどころか

 黙ってそっと上着をかけてくれて……


(……優しい方……)


 胸がまた、甘く揺れた。


「本当に……なんてことを……

 わたくし……もっと淑やかでいるつもりでしたのに……」


 だけど。


 あの瞬間、須磨子は

 本当に“守りたい”と心の底から思ったのだ。


 恥ずかしさの奥で、

 その想いがまだ、微かにあたたかく灯っていた。

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