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西園寺須磨子は未だ恋を知らない  作者: 天音紫子(著)×霧原影哉(構成・監修)
第4章 喫茶店いちゃいちゃ編(デート本番)
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喫茶店いちゃいちゃ編

 静かな店内で、須磨子とチーフは向かい合って座っていた。


 差し込む光が、チーフの横顔の輪郭を淡く縁取り、

 その影の美しさに──

 なぜだか胸がひとつ跳ねてる。


 テーブルの上には、湯気を立てる紅茶。

 静寂に、ふたりの呼吸の音だけが溶けていく。


「……須磨子様、お味はいかがでしょう」


 チーフの声は、喫茶店の静けさに馴染んで、

 耳に触れた瞬間、なぜか少しだけくすぐったい。


「は、はい……とても、香りがよくて……

 すこし……優しい気持ちになりますわ」


「それは……よかった」


 その穏やかな笑みが、

 もう反則でございます。


 紅茶の温度より、胸の温度のほうが上がっていくようで──

 須磨子は、思わずカップを持つ手をぎゅっと引き寄せてしまった。


「砂糖は、お入れになりますか?」


「あ……ええっと……普段はミルクを……でも今日は……」


「あたらしい味を、試してみたい……というお気持ちですか?」


 ──なぜ、わたくしの心が読めるのです。


「ど、どうしてそれを……?」


「須磨子様は、紅茶を見つめるとき、

 ほんの少しだけ、目がきらめくからです」


「っ……!」


 目が、きらめく。


 そんなことを、言われたことがない。


 須磨子は思わず視線を落としてしまった。

 けれど、指先はうっかり震えそうなくらい熱くなっている。


「では……砂糖をひとつ、お入れいたしますね」


 チーフがスプーンを取り、

 須磨子のカップにそっと砂糖を落とす。


 その仕草が、あまりにも丁寧で。

 “扱われている”というより──

 “大切にされている”と感じてしまって。


 胸がまた波紋のように揺れた。


「……かき混ぜても、よろしいでしょうか」


「は、はい……おまかせ、いたします……」


 スプーンがカップの内側を小さくたたき、

 澄んだ音がふたりの間に生まれる。


 ただそれだけで、

 なんて甘い時間なのか。


 須磨子は紅茶をそっと口にふくんだ。


「……あっ」


「お口に合いませんでしたか?」


「い、いえ……あの……

 わたくし……その……

 チーフ様がかき混ぜてくださったと思うと、

 胸が……その……あたたかく……」


 言いながら、自分で何を言っているのか分からなくなり、

 慌てて口をつぐんだ。


 なのに──


 チーフは、ほんの少しだけ目を伏せ、

 耳のうしろまで赤くしていた。


「……そう言っていただけると、光栄です」


 声が、少しだけ低くて。

 須磨子の心の奥に、すとんと落ちてしまった。


(ああ……やっぱり、この方といると……

 胸が、変になってしまいますわ……)


 その瞬間──

 カップを置いた指先同士が、また触れそうになり。


「あっ……!」


「──失礼を……」


 ふたりとも同時に手を引く。


 けれど。

 触れなかったはずなのに、

 触れたように感じてしまうくらい。


 空気が、甘い。

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