喫茶店いちゃいちゃ編
静かな店内で、須磨子とチーフは向かい合って座っていた。
差し込む光が、チーフの横顔の輪郭を淡く縁取り、
その影の美しさに──
なぜだか胸がひとつ跳ねてる。
テーブルの上には、湯気を立てる紅茶。
静寂に、ふたりの呼吸の音だけが溶けていく。
「……須磨子様、お味はいかがでしょう」
チーフの声は、喫茶店の静けさに馴染んで、
耳に触れた瞬間、なぜか少しだけくすぐったい。
「は、はい……とても、香りがよくて……
すこし……優しい気持ちになりますわ」
「それは……よかった」
その穏やかな笑みが、
もう反則でございます。
紅茶の温度より、胸の温度のほうが上がっていくようで──
須磨子は、思わずカップを持つ手をぎゅっと引き寄せてしまった。
「砂糖は、お入れになりますか?」
「あ……ええっと……普段はミルクを……でも今日は……」
「あたらしい味を、試してみたい……というお気持ちですか?」
──なぜ、わたくしの心が読めるのです。
「ど、どうしてそれを……?」
「須磨子様は、紅茶を見つめるとき、
ほんの少しだけ、目がきらめくからです」
「っ……!」
目が、きらめく。
そんなことを、言われたことがない。
須磨子は思わず視線を落としてしまった。
けれど、指先はうっかり震えそうなくらい熱くなっている。
「では……砂糖をひとつ、お入れいたしますね」
チーフがスプーンを取り、
須磨子のカップにそっと砂糖を落とす。
その仕草が、あまりにも丁寧で。
“扱われている”というより──
“大切にされている”と感じてしまって。
胸がまた波紋のように揺れた。
「……かき混ぜても、よろしいでしょうか」
「は、はい……おまかせ、いたします……」
スプーンがカップの内側を小さくたたき、
澄んだ音がふたりの間に生まれる。
ただそれだけで、
なんて甘い時間なのか。
須磨子は紅茶をそっと口にふくんだ。
「……あっ」
「お口に合いませんでしたか?」
「い、いえ……あの……
わたくし……その……
チーフ様がかき混ぜてくださったと思うと、
胸が……その……あたたかく……」
言いながら、自分で何を言っているのか分からなくなり、
慌てて口をつぐんだ。
なのに──
チーフは、ほんの少しだけ目を伏せ、
耳のうしろまで赤くしていた。
「……そう言っていただけると、光栄です」
声が、少しだけ低くて。
須磨子の心の奥に、すとんと落ちてしまった。
(ああ……やっぱり、この方といると……
胸が、変になってしまいますわ……)
その瞬間──
カップを置いた指先同士が、また触れそうになり。
「あっ……!」
「──失礼を……」
ふたりとも同時に手を引く。
けれど。
触れなかったはずなのに、
触れたように感じてしまうくらい。
空気が、甘い。




