甘やかな再会の道すがら(前編)
石畳の小道を並んで歩く須磨子とチーフ。
ほんの少しの距離を置いて歩いているのに──
須磨子のすぐそばに寄り添っているような安心感がある。
「……あの、須磨子様」
ふいに呼ばれ、胸がどきりと跳ねた。
「は、はいっ」
「先ほどから……歩調が少し速くなっておられます」
「まあっ……! そ、そうでございましたか?」
「ええ。お気持ちが浮き立っておられるのだろうと思いましたので」
穏やかな声音に、頬が熱くなる。
「お……お恥ずかしいところを……」
「いえ。お気になさらず。むしろ……」
チーフはそこで言葉をやわらかく切り、
視線を前へ戻した。
けれど、さりげなく口元がほころんでいるのが、須磨子には見えてしまう。
「……楽しそうで、良かったです」
「……っ」
ただその一言だけで、
心の緊張がふっと緩むように、あたたかい気持ちが広がっていった。
いったいどうしてなのでしょう。
すれ違った女性がちらりとこちらを見て、微笑ましげに目を細めた。
カップルと勘違いされてしまったのかしら……?
そんなことを考えるだけで、鼓動がひとつ跳ねる。
「チーフ様……?」
「はい」
「……あの、わたくしと歩くのは……ご迷惑ではございませんか?」
自分でも、どうしてそんなことを聞いたのかわからないほど、
声が小さくなった。
チーフは少し驚いたように須磨子を見つめ──
すぐに静かな、けれど確かな声音で答えてくれた。
「迷惑なはずがございません。
むしろ……こうしてご一緒できることを、光栄に思っておりますよ」
「……まあ……っ」
胸がぎゅうっと締めつけられ、
それなのに、不思議と甘い余韻だけが満ちていった。
「須磨子様」
「……はい」
「本日は、お楽しみいただけているでしょうか」
「……ええ。とても。
わたくし……その……」
一歩、勇気を出して言葉を紡いだ。
「チーフ様とご一緒ですもの。
……心が、とても安らいでおりますわ」
須磨子の言葉に、チーフの歩みがほんの一瞬だけ止まった。
その沈黙が、怖くて……でも、愛おしくて。
そっと顔を上げると──
チーフは、深い優しさを湛えた目で須磨子を見つめていた。
「……ありがとうございます、須磨子様」
風が木々を渡り、ふたりのあいだをやわらかく吹き抜けていく。
その時間が、永遠に続けばいい──
そんなことを、ふいに願ってしまうほどだった。




