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静かな午後、お誘い
胸の高鳴りがようやく落ち着きはじめたころ、
チーフは須磨子の歩調に合わせて、少しだけ速度を緩めてくれた。
「……須磨子様」
「は、はいっ」
思わず背筋が伸びてしまう。
須磨子の返事に、チーフはわずかに目を細めた。
「先ほどは驚かれたでしょう。
もしよろしければ……この近くに、静かなお店がございます。
少しお休みになりませんか」
「お……お休み……?」
「ええ。歩きづめでいらっしゃいますし。
ご無理をなさらぬようにと」
“ご無理をなさらぬように”。
その言葉は、
やさしく包むようでいて――心の奥をそっと撫でられたような感覚だった。
「……では、少しだけ。
お邪魔にならないのでしたら」
「もちろんです。
……むしろ、わたくしのほうが、お側にご一緒できて光栄です」
え。
い、今……なんと……?
顔を上げると、
チーフはほんのわずか――本当にわずかに、表情を和らげていた。
(……どうして、こんなにも心がざわめくのでしょう)
理由はまだ、わからない。
けれど、
並んで歩く距離が、さっきよりも少しだけ近いように感じてしまうのだ。




