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❴新連載❵そんな恋愛は、ありですか!?♂♀女装して好きな女の子に近づきたい!  作者: 顔のない人間


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第4.5話 美少女フィギュアが欲しい2

 帰り道――。


 夕暮れ前の街は、昼間に溜め込んだ熱をまだ吐き出しきれず、どこか気だるい空気に包まれていた。

 アスファルトはほんのり温もりを残し、行き交う人々の足音さえ、いつもより鈍く響いている気がする。


 その中を、日菜は肩を落とし、まるで長旅に敗れた放浪者のような足取りでとぼとぼと歩いていた。


(……また、次のチャンスを狙おう)


 自分に言い聞かせるように、胸の奥で呟く。

 吐き出した息は深く、昼間の陽射しが今日はやけに肌に残っているように感じられた。


 有紗との距離は、確かに縮んでいる。

 それは疑いようのない事実だ。

 けれど――。


(……本当に、前に進めてるのか?)


 女装してまで踏み込んだこの立場。

 自分は正しい道を選んでいるのか、それとも引き返せない場所まで来てしまったのか。

 答えの出ない思考が渦を巻き、日菜の歩幅は自然と小さくなった。


 その時だった。


「……ん?」


 視界の端に、かすかな違和感が引っかかる。


 いつも通っているはずの帰り道。

 しかし、そこから一本外れた細い路地の奥に、ぽつんと小さな灯りがともっていた。


 人通りのほとんどない路地は、夕方の影に沈み込み、まるで街の喧騒から切り離された異界の入口のように見える。


(……こんな場所、あったっけ?)


 普段なら気にも留めず通り過ぎていたはずだ。

 だが今日は違った。


 胸の奥が、妙にざわつく。

 理由は分からない。それなのに視線が離れず、足が勝手に止まってしまう。


 路地の奥には、小さな店がひっそりと佇んでいた。


 年季の入った木の外壁。

 色褪せたショーウィンドウ。

 そして、古びた木の看板に手書きの文字。


《玩具屋ルーチェ》


 どこか懐かしく、それでいて現実感の薄い響きだった。


(……絶対、今まで見たことない)


 なのに、不思議と「初めての場所」という感覚がしない。

 まるでずっとそこに存在していて、今日ようやく視界に入っただけ――そんな錯覚すら覚える。


 夕風が吹き抜け、看板がかすかに軋んだ。


(……少し、覗くだけなら)


 誰に言うでもなく小さく呟く。

 自分でも驚くほど、迷いはなかった。


 日菜は吸い寄せられるように扉へと手を伸ばす。


 ――ちりん。


 鈴の澄んだ音が、静かな路地に優しく広がった。


「いらっしゃいませ」


 店の奥から、穏やかで落ち着いた声が返ってくる。


 中へ足を踏み入れると、外観以上に温もりのある空間が広がっていた。

 木製の棚には、玩具やフィギュア、どこか懐かしさを帯びた人形が所狭しと並んでいる。

 新品もあれば、時間を経た品もあり、店全体が現実と夢の境目のような雰囲気をまとっていた。


 カウンターの向こうには、小柄で柔和な表情の店主が立っている。

 白髪交じりの髪と穏やかな笑みが、不思議と印象に残った。


「……あの」


 日菜は胸の鼓動を抑えつつ、一歩前へ出る。


「あの……アレーヌのフィギュア、ありますか?」


 唐突だと自分でも思った。

 それでも、その名は自然と口をついて出た。


「ん? あるとも」


 店主は驚く様子もなく、にこやかに頷く。


「ちょうど今日、入荷したばかりでね」 


「ほ、本当ですか!?」


 その瞬間、日菜の表情は一気に花開いた。

 沈んでいた気分など、跡形もなく消え去る。


「やった……!」


 胸の前で両手を握りしめる姿は、完全に無邪気な少女そのものだった。


 それを見て、店主は楽しそうにくつくつと笑う。


「いやぁ、こんな可愛らしいお嬢さんに買ってもらえるとは思わなかったよ」


「お、お嬢さん……?」


 一瞬言葉に詰まり、日菜は引きつった笑みを浮かべる。


「あ、あはは……」


 訂正する勇気は、最後まで出なかった。


 会計を済ませると、店主はフィギュアを丁寧に包み、袋に入れて差し出す。


「どうか、大切にしてあげてください」


「……はい」


 袋を受け取った瞬間、胸の奥にちくりと小さな痛みが走る。


(……ごめんなさい。お嬢さんじゃないんです)


 ほんのわずかな罪悪感。

 けれど、それ以上に腕の中の“アレーヌ”が愛おしくて仕方がなかった。


 店を出ると、先ほどまでの影が嘘のように、明るい日差しが街を照らしている。


 振り返れば、玩具屋ルーチェは変わらずそこに静かに佇んでいた。


「……結果オーライ、ってことで」


 日菜は小さく笑い、袋を抱え直す。


 足取りは、来た時よりもずっと軽い。


 胸に小さな満足感を宿しながら、日菜は上機嫌で家路につくのだった。

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