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❴新連載❵そんな恋愛は、ありですか!?♂♀女装して好きな女の子に近づきたい!  作者: 顔のない人間


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第17話 生徒会

 その頃、日菜はというと。


 自分の仕事をきれいさっぱり他人に押し付け、

 一人のうのうと校内を散策していた。


 帝王学園の広い校庭。その奥にある小さな丘。

 設置された手すりに肘を預け、日菜はゆったりと風に身を任せていた。


 夏の終わりを告げる風は、少しだけ涼しく、

 制服の裾と長い髪を軽やかに揺らす。


 その姿はどこか自由で、

 同時に――儚げでもあった。


(あー……気持ちいい)


 受付の騒がしさとは無縁の静けさ。

 それを満喫していると、不意に周囲の視線を感じた。


 ――見られている。


 そう思った瞬間。


「やあ」


 穏やかな声が背後からかけられる。


 振り返ると、そこに立っていたのは――

 帝王学園テニス部のエースにして、現生徒会長。


 三雲悠人だった。


 整った顔立ちに、余裕を感じさせる微笑。

 まさに“模範的優等生”を絵に描いたような人物だ。


「噂の転校生とは、君のことかな」


「……はい、そうですけれど」


「こんにちは。安桜日菜さん」


 三雲は丁寧に一礼する。


「僕は現生徒会長の三雲悠人と申します」


 そして、ふっと視線を空へ向けた。


「それにしても、ここの風は本当に気持ちがいいですね」


「……それで?」


 日菜は腕を組み、少しだけ距離を取る。


「まさかナンパですか? でしたらお断りします」


「はは、違う違う」


 三雲は苦笑しながら手を振った。


「今日は一つ、提案をしに来たんだ」


 一瞬間を置いて、さらりと付け足す。


「……もっとも、君がもし僕の恋人になりたいと言うなら、いつでも歓迎するけど」


「生憎、心に決めた相手がいるので」


 即答だった。


「……そうか。それは失礼した」


 三雲は素直に引き下がる。


「で、その“提案”とは?」


 日菜が問い返すと、三雲の表情が少し真剣になる。


「知っての通り、僕は夏休みが終われば生徒会長の座を降りる」


 風が一段強く吹き、丘の草が揺れた。


「だから後任が必要なんだ」


 そして、まっすぐに日菜を見る。


「この由緒正しい帝王学園高校で、  品性と学力、社交性、そして周囲からの信頼を兼ね備えた人物――」


 一拍。


「安桜日菜。君に、次期生徒会長を任せたい」


「お断りします」


 間髪入れずに返された言葉に、三雲は目を瞬かせた。


「……決断が早いね」


「そういう柄じゃありませんし」


 日菜は肩をすくめる。


「そもそも、私より適任なんてこの学園にいくらでもいるでしょう」


「前回の期末テスト、学年二位の君がそれを言うかい?」


「こういう役職はですね」


 日菜は指を一本立てる。


「態度がデカくて、声がデカくて、図太い人の仕事です。  私には向いてません」


「はは……手厳しいな」


 三雲は苦笑しつつも、言葉を続けた。


「僕の見立てではね、  帝王学園に相応しい次期生徒会長候補は四人いる」


 日菜は黙って聞く。


「かつて“鬼才”と呼ばれた君」 「現生徒会会計の暁山颯」 「上野家のご令嬢で、現書記の上野小桃音」 「そして――転入初日で学園を騒がせ、  現学力国内ナンバーワンの天上院有紗」


「……三雲会長」


 日菜は眉をひそめた。


「私が“かつて鬼才だった”という情報、  どこで手に入れたんですか?  学校も違うはずですが」


「二年前から、かなり噂になっていたよ」


 三雲はあっさり答える。


「まさか君がこの学園に転校してくるとは思わなかったけれどね」


 そして、静かに続けた。


「もし君が立候補してくれるなら、  僕は匿名で君を推薦しようと思っている」


「……それでも、お断りします」


 きっぱりと。


「私は生徒会に興味ありません」


「そう言わずに、少し考えてみてほしい」


 三雲は一歩踏み込む。


「もしかしたら――  君の父上に関する情報も、手に入るかもしれない」


 その一言で。


 日菜の心が、わずかに揺れた。


(父上……)


 姉ですら多くを語らない、二年前の出来事。


 沈黙の中、日菜は目を伏せる。


「……少し、考えておきます」


「それでいい」


 三雲は満足そうに頷いた。


「答えが出たら、明日の文化祭準備の時間に生徒会室へ来てくれ」


 三雲が去った後、日菜はそっと息を吐いた。


「……父上、ね」


 小さく独り言を漏らす。


「姉さんも話してくれない二年前のこと……  もしかしたら、何か分かるかもしれない」


 考えながら、日菜は踵を返す。


 ――そして何事もなかったかのように、

 再び受付のある場所へと戻っていった。


◆◆◆

 

 数時間後。


 空は茜色に染まり、帝王学園の校舎に長く影が伸びていた。

 オープンキャンパスの喧騒も次第に落ち着き、来場者の姿はまばらになっていく。


 ――にもかかわらず。


 日菜は、当然のように戻ってこなかった。


「……」


 受付の机を挟んで向かい合う、實彦と小桃音。

 二人の間には、言葉では測れないほど気まずい沈黙が横たわっていた。


(なんか喋れよ……!)


 實彦は内心で叫ぶ。


(こいつ、なんでずっとボーッとしてるんだ……?  これじゃ俺が、空気も読めないダサ男みたいじゃないか……!)


 だが口に出せるはずもなく、二人はただ淡々と作業を続けていた。

 チケットを揃え、机を拭き、パンフレットを片付ける。


 夕風が、紙の端をかすかに揺らした。


 ――その沈黙を、ようやく破ったのは小桃音だった。


「……み……なんとかさん」


「無理しなくていいぞ」


 即座に返す實彦。


「名前、覚えなくていいから」


 小桃音は一瞬だけ眉をひそめたあと、なぜか真剣な表情になる。


「では……」


 ほんの一拍。


「今度、ご一緒にデートしましょ」


「……え?」


 脳が、理解を拒否した。


 次の瞬間――


 實彦の手から、ペットボトルが滑り落ちた。

 乾いた音を立てて、アスファルトの上を転がる。


「……は?」


 数秒の沈黙。


 そして、反射的に出た本音。


「死んでも嫌だけど」


 ――ドンッ。


 衝撃。


 小桃音の拳が、一直線に實彦の腹部へと叩き込まれた。


「がっ――!」


 空気が肺から押し出され、

 實彦の体は一瞬、宙に浮いた。


「ありえません」


 静かな声。

 だが、怒りは確実にこもっていた。


「せっかく私が、デートに誘ったというのに」


 地面に転がる實彦を見下ろし、小桃音は腕を組む。


「断るなんて」


「いや、普通に命に関わる――」


「ん”」


「イタイイタイイタイ」


 即答だった。


 夕焼けに照らされた校舎の前で、

 實彦は腹を押さえながら、静かに悟った。


◆◆◆


「お・ま・た・せ――っと」


 どこか意気揚々とした声とともに、日菜が受付へ戻ってきた。


 風に揺れる髪、軽い足取り。

 ほんの数分の離席だったはずなのに、妙に清々しい顔をしている。


 ――そして。


「……え?」


 日菜は、目の前の光景を見て言葉を失った。


 そこには、

 地面に仰向けで倒れ込む實彦と――

 その上に片足を乗せ、腕を組んで仁王立ちしている小桃音の姿があった。


 周囲の空気が、明らかにおかしい。


「……君たち、ここで何してるの?」


 沈黙を破った日菜の声は、ひどく冷静だった。


「M――」


「ちがう!!」


 實彦が即座に否定する。


「いやこれは違うんだ日菜! 断じてそういう趣味があるわけじゃない!  事故! 完全なる事故だから!」


「うん、わかってる」


 日菜は一度だけ頷いた。


「でもさ、實彦」


 腰に手を当て、ため息交じりに続ける。


「そういう年頃なのは、まあ……否定しないけど」


「違うんだ誤解しないでくれ!」


「小桃音さんを巻き込んでまでやることじゃないでしょ」


「だから違うって言ってるだろ!?  向こうから――いや、正確にはだな……!」


 必死に説明しようとする實彦の言葉は、完全に空回りしていた。


 小桃音はというと、少しだけ頬を赤らめながら、視線を逸らしている。


「……」


 その様子を見て、日菜は一つ深く息を吐いた。


「……はぁ」


 そして、踵を返す。


「私、ちょっと向こう行ってくるから」


「ちょ、ちょっと待て日菜!?  話を聞いてくれ!」


「落ち着いたら、ちゃんと説明して」


 それだけ言い残し、日菜はさっさとその場を離れていった。


「日菜ーーーっ!!」


 夕方の校内に、實彦の叫び声が虚しく響く。


 残された二人の間に、

 なんとも言えない気まずさだけが、静かに漂っていた。

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