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❴新連載❵そんな恋愛は、ありですか!?♂♀女装して好きな女の子に近づきたい!  作者: 顔のない人間


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第16話 オープンキャンパス

 帝王学園高校――今日は年に一度のオープンキャンパスの日だった。


 正門から続く並木道には、進学希望の中学生や保護者たちが行き交い、

 校舎のあちこちからは部活動の呼び込みの声や、拡声器越しの案内が響いている。

 いつもは落ち着いた学園も、今日はまるでお祭りのような賑わいだ。


 そんな中。


 受付テントの奥、簡素な長机の前に、日菜と實彦は並んで座っていた。


「ねぇねぇ……」


 日菜が、受付用紙をいじりながらぼやく。


「なんで私たち、こんなことしてるんだろうね」


「知らねぇよ。生徒会だのボランティアだのに、名前書いたやつの末路だろ」


 二人の前には、パンフレットの山と来場者名簿。

 ひたすら名前を書いて、資料を渡すだけの単純作業だ。


「私さぁ、早く遊びたいんだけど!」


「駄々こねるな。俺だって遊びたいわ」


 實彦はため息をつきつつ、ペンを走らせる。


 しばらく沈黙が流れた後、

 日菜がふと思い出したように横目で實彦を見た。


「……そういえばさ」


「ん?」


「あんた、彼女とかいないの?」


 その瞬間。


「――ぶっ!」


 實彦は盛大にむせた。


「い、いたらこんな惨めな青春送ってねぇよ!」


「だよねー」


 即答だった。


 日菜は妙に納得したように頷き、再び椅子に深く座り直す。


「いいから手、動かせ」


 實彦はそう言って、日菜の頭を軽くぽんと叩いた。


「はいはいー」


 気の抜けた返事。


 だが次の瞬間、日菜は立ち上がった。


「……やば。水なくなる」


「は?」


「ちょっとあんた、私少し離れるから、あとよろしくね」


「ちょっと待て」


 實彦は反射的に、日菜の腕を掴んだ。


「何よ」


 じとっとした視線が返ってくる。


「お前、そう言ってサボるつもりだろ」


「……チッ」


 舌打ちが、やけに正直だった。


「行かせねぇよ」


「もう少し気配りとかできないの?」


「男に気配りなんかできねぇよ」


 きっぱりと言い切る。


「どうしても代わってほしいなら、  誰か見える範囲で人呼んでこい」


「……はぁ」


 日菜は大きくため息をつき、肩をすくめた。


「ほんと融通きかない男」


「悪かったな」


 そんな言葉の応酬をよそに、

 受付の前には、また次の来場者が並び始めていた。


 ――どうやら、

 この退屈な共同作業は、もう少し続きそうだった。


◆◆◆


 それから数分後。


 受付テントの前に、見覚えのある少女の姿が現れた。


 肩口まで伸びた黒髪を揺らし、控えめな足取りで近づいてくる。

 その表情は相変わらず感情が読み取りづらく、周囲の賑わいから一歩引いたような雰囲気をまとっていた。


「……あ」


 日菜が真っ先に気づき、声を上げる。


「上野さん、久しぶり。こんなところで一人で、何してるんですか?」


「え? 特に、何もしていませんが……」


 小桃音は首を傾げ、きっぱりと言い切った。


 その即答に、日菜は一瞬だけ目を瞬かせたあと、にこっと笑う。


「でしたら、少しだけ私と交代していただけませんか?」


「……?」


 横で聞いていた實彦が、心の中で叫ぶ。


(おいおい、こいつ……友達を売りやがった)


 小桃音は状況を理解するまでに数秒かかったが、やがて静かに頷いた。


「構いませんが」


「やったー! それじゃ、あと頼みますね!」


 その瞬間。


 日菜は本当に“脱兎のごとく”だった。

 まるでうさぎのような軽やかな動きで、人混みに紛れていく。


「……逃げ足だけは一流だな」


 實彦が呆然と呟く。


 残された二人の間に、微妙な沈黙が落ちた。


「……映画以来ですね、ポッキー」


「もう一文字も合ってねぇし、原型も留めてないぞ」


 即座にツッコミが入る。


「名前は源 實彦だ。いい加減覚えろよ」


「失礼しました、みさん」


「一文字で済ませろとは言ってない!」


 思わず声を荒げる實彦をよそに、小桃音は至って真面目な顔をしていた。


「ところで……ここは、何をする場なのですか?」


「ああ」


 實彦はため息をつき、机の上のチケットを指差す。


「来客が来たら、この入場券を渡すだけだよ」


「なるほど」


 小桃音は小さく頷き、チケットを一枚手に取った。


「……わかりました」


 そうして、二人は並んで受付に立つ。


 外では、変わらずオープンキャンパスの喧騒が続いている。

 だがその片隅で、

 どこか噛み合わない二人の、不思議な共同作業が始まったのだった。

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