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❴新連載❵そんな恋愛は、ありですか!?♂♀女装して好きな女の子に近づきたい!  作者: 顔のない人間


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第15.5話 大食い2

「――今日、この日のために」


 ステージ中央で、たかしが拳を握りしめ、胸を張った。


「俺は、今までずっと鍛えてきた!」


 スポットライトが照らすその体は、確かにがっしりとしている。

 腕も太く、腹も分厚い。


「それが……唯一の、俺の取り柄だからだ!」


 一瞬の間――

 そして、会場のあちこちから黄色い歓声が上がった。


「きゃー!」 「たかしさーん!」


 特に前列に陣取った主婦層の盛り上がりがすごい。


(いや……その外見で“食べることだけが取り柄”は、さすがに無理があるだろ)


 實彦は心の中で冷静にツッコミを入れつつ、周囲を見渡す。


(……それにしても)


 やけに若い男性客が多い。


 しかも、目が血走っている。


 その異様な空気を察したのか、笹倉澤汝がマイクを手に取り、満面の笑みで叫んだ。


「みなさ〜ん! 今日は楽しんでますか〜!」


 次の瞬間。


「うおおおおおお!!」


 男性陣の咆哮が、会場を揺らした。


「男が二人いるぞ!」 「焼き殺せー!」


「ひっ……!」


 思わず聲を上げてしまい、實彦は一歩後ずさる。


 だが、澤汝は慌てる様子もなく、笑顔で続けた。


「大丈夫大丈夫! みんな安心して!  この人たち、彼女とかじゃないから!」


 ざわ……と、空気が一瞬で変わる。


「……ならいいや」 「最初に言えよ〜」


 納得したような声が、あちこちから上がった。


(基準、そこなのかよ……)


 そう言われてしまい、實彦は肩を落とす。


 地面に針で縫い付けられたかのように、その場に立ち尽くしていた。


 そんな中、司会者が再びマイクを握り、場を引き締める。


「それでは――ルールを説明します!」


 照明が落ち、視線が一斉にステージへ集まる。


「制限時間は三十分!  その間に、より多くのラーメンを完食したチームの勝利です!」


 観衆の期待と興奮が、会場を満たしていく。


 目の前には、次々と並べられていく巨大な丼。


 湯気と磯の香りが立ち上り、否応なく胃を刺激する。


(……三十分で、これを?)


 實彦はごくりと喉を鳴らした。


 夏祭りの熱気の中、

 こうして――胃袋を賭けた戦いが、今まさに始まろうとしていた。


 ――数分後。


「……もう、無理……」


 實彦はそう呟くと、力尽きたように机に突っ伏した。

 胃の奥が熱く、視界がぐらりと揺れる。


「おいおい……野田と峻も、もうぶっ倒れてんじゃねぇか」


 実況席から、半ば呆れたような声が飛ぶ。


 テーブルを見れば、野田も峻も椅子にもたれ、完全に戦闘不能だ。

 もはや箸すら持ち上がらない。


「さて! 会場に残っているのは、ついにこの二人!」


 司会の声が一段と熱を帯びる。


「笹倉選手! すごい! みるみるうちに麺が消えていくぞ!」


 湯気の立つ丼が、次々と空になっていく。

 澤汝は一切表情を変えず、ただ淡々と箸を進めていた。


「一方、たかし選手も負けていない!  これは……勝負は五分五分か!?」


 その時だった。


 澤汝が、ふっと小さく笑った。


「……いや」


 マイクを通さず、しかし確かな声で。


「五分以上だ」


「おっとーっ!?」


 次の瞬間。


「ここで笹倉選手! 第九皿目を完食――!  とてつもないペースだ!!」


 会場がどよめく。


「たかし選手も必死に追いすがる!  だが……っ」


 数分後。


「――あっ!」


 たかしの箸が、ついに止まった。


 丼に顔を近づけたまま、ゆっくりと前のめりに倒れる。


「た、たかし選手、ダウン!!」


「決まったー!!」


 司会の絶叫が、夕空に響き渡る。


「勝者! 笹倉チーム!  二連覇! 二連覇達成だー!!」


 男性陣は拳を突き上げて歓喜し、

 主婦層からは、なぜかすすり泣く声が聞こえてきた。


「……完敗だ」


 實彦は、机に顔を伏せたまま呟いた。


「笹倉選手! 今のお気持ちを!」


 マイクを向けられた澤汝は、少しだけ首を傾けてから答える。


「……もっと、食べたかった」


「す、すごすぎる……」


(こいつの腹の中、ブラックホールか何かか……)


 實彦は半ば本気でそう思った。


「おい、日菜。野田。生きてるか?」


「……ばっちぐー」


「……うい……」


 返事はあったが、二人とも虫の息だった。


「それでは! 笹倉チームには、景品として――  沖縄旅行二泊三日の旅を贈呈します!!」


 拍手が、会場のそこかしこから巻き起こる。


 澤汝は代表して旅行券を受け取り、軽く一礼した。


 こうして、寸戸巾商店街の大食い大会は、盛大な拍手の中で幕を閉じた。


 ――気づけば。


 朝日はすでに傾き、

 街は夕日に包まれていた。


「いやー、勝った勝った」


 腹を抱えながら、日菜たちは商店街を後にする。


「で、どうするんだ? 笹倉さん」


「……このまま帰っていい?  腹、痛くて」


 結局、日菜と野田は先に帰り、

 實彦と澤汝だけが、その場に残った。


「俺、こっちの道だから……じゃあな、笹倉さん」


「うん。今日はありがとう、實彦君」


 軽く手を振り、歩き出そうとした――その時。


 少しだけ間が空いて。


 澤汝が、静かに口を開いた。


「……影山峻君に、よろしくね」


「――っ」


 振り返った實彦の前で、

 澤汝の表情は、夕日の中でも揺らぐことはなかった。


 その一言が、

 なぜか胸の奥に深くのこったままだった。

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