第15話 大食い大会
照りつける太陽が、容赦なく人々を照らしていた。
アスファルトから立ち上る熱気が、夏休み真っ只中であることを否応なく実感させる。
そんな昼下がり――
日菜、實彦、そして野田の三人は、なぜか笹倉澤汝の呼び出しを受け、寸戸巾商店街へと集められていた。
「……暑いね。今日は特に」
日菜が、うちわ代わりに手で風を送りながらぼやく。
「ほんとだよ」
實彦は額の汗を拭いながら、苛立ちを隠さずに言った。
「一体、商店街にまで俺たちを呼び出して、笹倉のやつは何を企んでるんだ」
「ん~……」
野田が腕を組み、空を見上げる。
「でも、確かなことが一つある」
三人の視線が、自然と交わる。
「「「――絶対、ろくでもない」」」
その瞬間だった。
ざわついていた商店街の空気が、急に変わった。
通りの奥、舞台広場の方から歓声が上がり、人だかりが一気に膨れ上がっていく。
「……なに?」
「一体、何が始まるんだ?」
三人が足を止めると、視線の先――
簡易ステージの中央に、一人の男が堂々と立っていた。
マイクを握り、胸を張って高らかに叫ぶ。
「レディース・エーン・ジェントルメーン!」
その声に、観衆が一斉に沸き立つ。
「皆さま! ついにこの時がやってまいりました!」
拍手と歓声が、商店街を揺らす。
「長年、この寸戸巾商店街による町おこしイベント――
今年も、開催の時です!」
男が拳を突き上げる。
「盛り上がっているかーっ!!」
「うおおおおお!!」
さっきよりも一段と大きな歓声が、空気を震わせた。
その横で――
實彦が、はっとした表情でこちらを振り返る。
「あ、そうだ……!」
「今日は、年に一度の町おこしの日だ!」
「え、今さら?」
日菜が呆れたように首をかしげる。
「で……町おこしって、何するの?」
困惑した表情で問いかける日菜に、實彦は指を折りながら思い出す。
「えーと、確か去年は……
ビンゴ大会に、クイズ大会……それから――」
一瞬の間。
「……あ」
「大食い大会」
「――――大食い大会!!?」
日菜の声が、商店街の喧騒に負けじと響いた。
その瞬間、すべてが繋がった。
(……なるほどな)
ようやく合点がいく。
――笹倉のやつ。
この寸戸巾商店街名物の《大食い大会》に出場するつもりで、俺たちを呼び出したに違いない。
嫌な予感は、確信へと変わった。
そしてその確信は、これから始まる“地獄”の前触れに過ぎなかったのだった。了解です。
コメディ感・強制参加の理不尽さ・大会直前の高揚と不安を軸に、
誤字修正/表現整理/背景・心理描写を追加して、ライトノベル風に整えます。
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「やー、みんな! 来てくれたんだね!」
能天気な声とともに現れたのは、満面の笑みを浮かべた笹倉澤汝だった。
その表情を見た瞬間、胸の奥に嫌な予感が確信へと変わる。
「……どういうことなんだよ、笹倉」
實彦が、額に青筋を浮かべながら問い詰める。
「実はね」
笹倉は人差し指を立て、いかにも申し訳なさそうな顔で言った。
「今年から大食い大会、チーム制が導入されちゃってさ」
「は?」
「だからどうしても、實彦くんたちの助けが必要だったんだよ!」
その言葉に、三人の視線が一斉に集まる。
「――俺は出ないからな」
即答だった。
實彦は一歩引き、断固とした態度を示す。
「えええ~」
笹倉は心底残念そうに肩を落とす。
――その時。
ステージ上から、司会者の張りのある声が響き渡った。
「さあ、皆さま! お待ちかね!」
ざわついていた会場が、一気に注目を集める。
「今回の大食い大会の優勝景品は――」
一拍置いて。
「沖縄旅行券! なんと六人分!!」
「「「――っ!?」」」
その瞬間、空気が変わった。
「……行くぞ、お前ら」
實彦が、目を輝かせながら言い切る。
((こいつ……!))
日菜と野田が歯ぎしりする。
(完全に最初から狙ってやがのか……!)
だが、もう遅い。
しばらくして――
会場は静まり返り、照明が落とされる。
闇の中、ステージだけがスポットライトに照らし出された。
湯気と香ばしい匂いが、どこからともなく漂ってくる。
「本日の競技は――」
司会者が高らかに宣言する。
「寸戸巾商店街名物!
特製・海鮮ラーメン大食い大会!!」
観衆の歓声が、耳をつんざく。
「そして! この海鮮ラーメンに挑むのは――」
照明が一気に明るくなる。
「スーパーバキュームこと、
笹倉澤汝チーム!!」
「おおおおお!!」
(……なんて酷い二つ名なんだ)
心の中で、全員が同じことを思った。
続けて、反対側のステージが照らされる。
「そして対するは――!」
司会者の声が、さらに力を増す。
「琴夷町の誇る怪物!
スーパーゴリラこと、たかしチーム!!」
観衆の盛り上がりは、最高潮に達した。
(……こっちもこっちで、かなり酷いな)
ネーミングセンスに戦慄しつつ、目の前に並べられていく大量の丼を見て、誰もが悟る。
(……これ、冗談じゃ済まないやつだ)
夏の祭りの喧騒の裏で、
こうして胃袋を賭けた戦いの火蓋が、静かに切って落とされたのだった。
今二作品を連載していますがpv数や総合評価で更新する頻度が違うのでよろしくお願いします。




