表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
❴新連載❵そんな恋愛は、ありですか!?♂♀女装して好きな女の子に近づきたい!  作者: 顔のない人間


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

12/18

第10話 メイド服はジャスティス

「いやー……すごかったね、澤汝先輩」


 店を出てからもしばらく、日菜は半ば呆然としたまま呟いた。

 胃の奥に残る満腹感と、脳裏に焼きついた衝撃映像が、まだ整理しきれていない。


「いやー、それほどでもないけど」


 澤汝は頭の後ろをかきながら、照れたように笑う。

 ほんの数分前まで、山のような“超ビッグナポリタン”を平らげていた人物とは思えないほど、あっさりとした態度だった。


(いやいや……どう考えても人間やめてるレベルだから……)


 日菜は心の中でだけ全力のツッコミを入れつつ、視線を前へと移した。


 駅前にそびえる大型ファッションビル。

 ガラス張りの外観に、夕方の光が反射している。


 その一角――

 学生向けのカジュアル服から、明らかに趣味全振りな衣装まで扱う、少し派手な服屋が目に入った。


 日菜の胸が、別の意味でざわつく。


(……有紗さんとの関係)


 気づけば、もう一ヶ月以上。

 一緒に出かけ、会話も増え、距離は確実に縮んでいる。


 ――はずなのに。


(何も、決定的なものがない)


 このままでは“仲のいい先輩後輩”で終わってしまう。

 そんな焦りが、胸の奥にくすぶっていた。


(こうなったら……)


 日菜は、ぐっと拳を握る。


(この服屋で、一気に流れを変える)


 理屈も計画もない。

 だが、勢いだけはあった。


 店内に足を踏み入れると、ポップな音楽と明るい照明が迎え入れる。

 ラックに並ぶ衣装は色とりどりで、視線を動かすだけで情報量が多い。


 その最中、日菜は無意識に胸元へ視線を落とした。


(……男だった時も思ってたけど)


 動くたびに主張するその存在に、内心で小さくため息をつく。


(やっぱり……邪魔だな、この胸)


「きゃー! 可愛いよ日菜先輩!」

「こっち向いてください!」


 黄色い歓声が上がった。


 日菜は――メイド服姿だった。


 白と黒の王道配色。

 フリルたっぷりのスカートに、腰に沿うエプロン。


 出来すぎなほど、似合ってしまっている。


 腕で胸元を軽く押さえながらも、日菜自身は驚くほど平然としていた。


(……恥ずかしいはずなんだけど)


 内心ではそう思う。


(でも、今さらだよね)


 覚悟を決めた人間は、強い。


「どう?」


 日菜は軽くポーズを取り、にやりと笑った。


「……可愛いだろ?」


 一瞬の沈黙。


 その中で――


「……カワイイ」


 有紗の、かすれるような一言。


 それだけで。


(――っ!?)


 日菜の心臓が、思い切り跳ねた。


 胸が、熱い。

 頭が、真っ白になる。


 聞き間違いであってほしいのに、

 でも、聞き間違いじゃないと分かってしまう。


(……今の、破壊力やばくない?)


 そんな日菜をよそに、澤汝が満面の笑みで割り込む。


「でしょでしょ! 私、センスあるわ〜!」


「こら、日菜ちゃん。調子に乗らないで」


 有紗のやんわりした声に、なぜか背筋が伸びる。


「私も後で着るんですから。交代交代ですよ?」


「……はい」


 素直に頷いてしまう自分に、日菜は内心苦笑した。


 さらに――

 友花がそっと値札を見て、固まる。


(二万五千円……高っ!?)


「ひ、日菜先輩……それ、買うんですか?」


「ええ。即決です」


「即決!?」


「うちは、多少お金に余裕がありますから」


 そう言って微笑む日菜。


 会計で差し出したブラックカードに店員は驚いた表情になっていた。


 支払いを終え、外に出ると、空は夕焼けに染まっていた。


「それじゃ……またね、みんな」


 それぞれが笑顔で手を振り、帰路につく。


 一人になった日菜は、胸元を軽く押さえ、小さく息を吐いた。


(……今日は、色々ありすぎた)


 恥ずかしくて、

 嬉しくて、

 少しだけ――誇らしい。


 そして何より。


(……有紗さんの『可愛い』)


 たった一言が、胸の奥でまだ熱を持っている。


 沈みゆく夕日が、その背中を静かに照らしていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ