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お気楽公爵家の次男に転生したので、適当なことを言っていたら英雄扱いされてしまった。  作者: イコ


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男しても女としても

《sideテル》


 ご主人様と飲み歩くのも、これで何度目かしら。私は農業が出来ればそれでよかった。だけど、私の家は貧しくて、奴隷として売られた。


 気づけば、変わり者のご主人様に連れ回される日々。


「テル、君は本当に付き合いがいいね。助かるよ」


 キンキンに冷えたエールを片手に、ほんのり赤くなったご主人様が笑いかけてくる。

 

 初めて飲んだ時は感動した。


 飲み慣れてしまえば、もうこれ以外にエールを飲みたいとは思えない。


 その誘惑に負けて、ついつい一緒にきてしまう。最近は夜更かしとエールの飲み過ぎで、顔がパンパンになって、気にしているんだけどな。


「そりゃあ、私には選択肢がないもの。奴隷だし。ほら、お酒も次を頼んだわ、冷やしてちょうだい」

「ハイハイ。そんなこと言うけど、嫌なら断ってくれてもいいんだよ?」

「ご主人様に断れるわけないでしょ? それに、意外と楽しいのよ、こういうの」


 そう言いつつも、あたしは心の中で呟く。


 正直、農業をさせてくれたら一番いいけど、この人といると退屈しないのも確かなのよ。


 それに、私の心は女。だけど、見た目は男。


 それを気にせず付き合ってくれるのは、ちょっと嬉しいのよね。


 ご主人様はこう見えて酔うと無防備になるの。そこがまた、可愛いんだから。叶わぬ恋。だけど、あなたのそばにいられる。


「テル、君はどんなお酒が一番好き?」

「うーん、そうね。ご主人様が作ってくれるキンキンに冷えたエールかしら?」

「僕と一緒だね!」


 無邪気に笑う笑顔がとても可愛くて、軽口を叩きながら、あたしはご主人様とグラスを傾けた。



 酒場を出た後、冷たい夜風が酔いを少しだけ覚ましてくれる。でも、ご主人様はまだほろ酔い気分。あたしの肩に手をかけながら、ふらふら歩いていく。


「テル、夜風って気持ちいいよね」

「ご主人様、それより足元に気をつけなさい。転んだら私が背負う羽目になるんだから」


 そんな軽口を叩いていると、不意に聞こえてきたのは、女の子の悲鳴だった。


「誰か、助けてください!」

「……テル、行こう」


 普段はどこか気の抜けたご主人様の表情が一変した。鋭い目つきに変わり、足取りもまっすぐに。


 悲鳴の方に駆けつけると、女の子が酔っ払いに絡まれていた。


「いいからついてこいって言ってるだろうが!」

「やめてください!」


 私が飛び出そうとした瞬間、ご主人様が手を伸ばして私を制した。そして、スッと相手の背後に回り込む。


「おい、嫌がってるだろう。やめなよ」


 その一言で、酔っ払いは振り返った。


「ああ? なんだてめぇ……」


 次の瞬間、ご主人様の手が酔っ払いの首を掴み、持ち上げて地面に叩きつける。女の子の背中を押して私に預けられた。


「ひっ!?」


 男の悲鳴が響く。ご主人様の目はいつもの優しげなものとは違う、まるで別人みたいな冷たさだった。


「テル、その子を頼む」

「はい、ご主人様」


 私は怯える女の子に近づき、軽く肩を抱いてあげる。


 小柄で痩せた子だ。ボサボサの髪と汚れた服を見る限り、生活も厳しいんだろう。


「大丈夫よ、もう怖い人はいなくなるから」


 そういうと、女の子は小さく頷いた。一方、ご主人様は酔っ払いを地面に叩きつけて静かに告げた。


「もう一度言う。二度とこんなことをするな。次は容赦しない」

「わ、わかりました! 許してください!」


 その後、酔っ払いを逃がしたご主人様がこちらに戻ってきた。


「テル、この子を送ってやってくれるか?」

「あら、ご主人様はどうするの?」

「少し、一人になりたい気分なんだ」


 その言葉を聞いて、何か思うところがあるのだろうと感じた。


 私は黙って従う良い女。


 女の子の手を引いた。



 彼女の話を聞くと、学園都市の酒場で働いているという。


 生活がままならずに、アルバイトをしているらしい。


「さっきは怖かったわね。でももう大丈夫よ。家は近いの?」

「はい、お屋敷はこの先です……本当にありがとうございました」


 彼女の言葉を聞いて、少しだけ胸が温かくなった。


 屋敷に着くと、彼女は深々と頭を下げた。


「テルさん、ご主人様にもお礼を伝えてください!」

「あら、私にもちゃんと感謝してね。おネェは優しいけど、タダ働きはしないわよ?」

「もちろんです!」


 そう言って彼女が笑顔を見せてくれた時、初めてその顔が驚くほど整っていることに気づいた。


 垢抜けないけど、磨けば光るタイプね。


 彼女が家に入ると、屋敷から怒声が響いた。


「あの子も訳ありってことかしら? さて、うちのご主人様が放っておくとは思えないわね」


 少しだけそんなことを考えながら、私は彼女を見送り、ご主人様の元へと戻った。


 きっとご主人様はあの子を救いに行く。なら、私がすることはその補助よね。農業をしないのだから、時間はいくらでもあるわ。


 それに、今の私ではご主人様の役に立てない。


「チョコちゃん。お願いがあるんだけど」

「テルちゃん。どうしたんですか?」

「ご主人様のお手伝いよ。それにチョコちゃんが大好きなお酒を飲む話」

「それは最高ですね!」


 奴隷である私たちに自由をくれるご主人様に、私たちも応えてあげなきゃね。


 きっと、ご主人様は将来的に英雄になられる。


 それまでたっぷりと恩を売っておくわ。


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