同年代の女性はしたたかだね
平民チームが陣地を取っていた水辺にやってきた僕は岩場に座る青い髪の美しい女性に近づいていく。
「初めまして、帝国エルトール公爵家次男フライと申します」
膝を折り美しい女性に対して礼を尽くす。
「あら、気づいていらしたの?」
「ええ、魚人族の方々が参加されているのに、姿を見せませんでしたから」
「ふふ、私たちの存在を誰も気にしませんからね」
「それは勿体無い。あなたほどの美しい方を気にしない男がいるのですか?」
「お上手ね」
そう言って振り返った女性は本当に美しい人魚姫だ。
青い髪に青い瞳。小麦色に焼けた肌は健康的で、外で過ごすことが多いのだろう。制服も特殊な水に浸かっても大丈夫な魔法素材で出来ている。
高身長で泳ぎが得意な筋肉質な体は、引き締まっていて彼女の生活環境が理解できる。
「改めてご挨拶させていただきます。ホエール族の族長が娘アクアリス・ネプティーナです」
「先ほどのフラッグ奪取ではしてやられました」
「ふふふ、みんなが中央で争っているので、水辺を使ってフラッグを奪わせていただきました」
「僕も、彼女に獣人のフラッグを奪ってきてもらったので、おあいこですよ」
ジュリアの頭を撫でてやりながら、先ほどのフラッグ奪取で彼女が獣人チームのフラグを取ってきてくれたので勝利を得ることができた。
「同じ作戦を取られて、自分がされないと勝手に思っていたので、やられました」
彼女の存在を見落として、アイス王子とロガン王子に気を取られた僕の敗北だ。
「ふふ、敗北宣言をわざわざ?」
「はい。今回の勝利者がいるなら、僕ではなく、あなただと思ったので、ネプティーナ王女様」
「そう、ありがとうございます。私たちは歌や芸術を愛して自由に生きている種族なので、あまり戦いで他種族の方々に認められることはないので、嬉しいです」
気負いもなく、王女という驕りもない。
「アクア、あなたにはそう呼ばれてみたいわ」
「アクア?」
「私の愛称です」
「僕が呼んでもいいのかい?」
「ええ、フライ。私もそう呼ばせてもらうわ」
「わかった、アクア、これからよろしく。僕らは友人だ」
「こちらこそありがとう。フライ」
握手を交わした僕らは互いに柔らかな雰囲気のまま別れた。
♢
学園も放課後になって、エリザベートとアイリーンさんの二人と合流をする。
「二人ともお疲れ様」
「フライ様、お疲れ様です」
「お疲れ様です。フライ様」
二人が僕の両腕を左右からホールドする。うん、相変わらずだね。
「学園はいかがでしたか? 本当なら、お供したかったのですが」
「はは、大丈夫だよ。ジュリアがいてくれたからね」
「皆さんとお会いできたのですか?」
「うん。とりあえず四人には挨拶を終えて、残りは公女様だけだよ」
「なるほど、セシリア・ローズ・アーリントン様でしたら、今の時間はお茶会をされていると思います」
「お茶会?」
さすがは公女様だね。公国が貴族と商人などの富裕層を取り立ててきたことで培った上流階級の立ち居振る舞いは、彼女が一番身につけているのだろうな。
「僕でも参加できるのかな?」
「一定数のマナーのある方であれば、大丈夫と言われていたようですわ」
エリザベートの言葉に、僕はジュリアの存在がネックになっていると悟った。ジュリアには上流階級の者達と接するだけの教育をしていない。
「そうか、アイリーン。すまないが、今朝いっていた支援とジュリアのことを頼めるかな?」
「かしこまりました」
「ご主人様?」
「ジュリア、アイリーンとそちらをお願いできるかい?」
「わかった!」
モフモフな頭を撫でてやると嬉しそうにアイリーンと手を繋いで立ち去っていく。
「さぁ、エリザベート行こうか」
「はい!」
僕はエリザベートをエスコートするために手を差し出す。
今の僕はエリザベートのお付きとして、公女様のお茶会に参加する。顔も知らない相手のお茶会に参加するために、知識のあるエリザベートを選択したわけだ。
学園には学生達が憩いを求める中庭があり、綺麗な花々が季節折々で咲き乱れる。
その中でバラが咲き乱れる美しい庭園で開かれる紳士淑女のお茶会は、厳かでありながら格式高い雰囲気をしている。
「あら、これはエリザベート・ユーハイム様ではありませんか?」
ピンクの髪色にタレ目の可愛らしい容姿。誰もが彼女に恋をする。そんなフレーズが浮かんできそうなアイドルのような可愛い人だった。
「セシリア・ローズ・アーリントン様、お誘いいただいていたのになかなかお茶会に参加できなくて申し訳ありません。本日はわたくしの友人と共に参加させていただいてもよろしいかしら?」
「もちろんですわ。皆さん、こちらは帝国伯爵家ご令嬢のエリザベート・ユーハイム様ですわ。仲良くしてあげてくださいね」
どうやらエリザベートとセシリア嬢は、知り合いの様子で、仲良く話をしているが、そこには女性同士の鬩ぎ合いがあるのだろう。
「それとそちらは初めましてですわね」
そして、僕に視線を向けられる。
僕は彼女に対して膝を折って、手の甲にキスをさせてもらう。
「まぁ」
「お初にお目にかかります。セシリア・ローズ・アーリントン様、帝国公爵家フライ・エルトールでございます」
「エルトール公爵家の! これはこれは。ふふ、エリザベート様も人が悪いですわ。まさか噂の殿方を連れてきてくださるなんて」
どうやら僕のことが噂になっていたようだ。
お茶会をしていた者達も僕の登場にざわつく。
「ふふ、サプライズですわ。フライ様は、学園にいらっしゃるのはレアなので、セシリア様に驚いていただけると思って」
「そうですわね。驚いてしまいました。お二人とも席についてください。どうぞ私の横へ」
セシリア嬢の側に座らせてもらって、給仕によってお茶を用意される。香りがよく、高級なお茶であることは間違い無いですね。
「どうぞ、まずはお菓子とお茶を」
進めるままにお茶をいただき、お菓子もマフィンとクッキーが用意されていた。
「それにしてもフライ様は、噂のような雰囲気では無いのですね」
「噂ですか?」
「ええ、学園をサボって、ギャンブルばかりの不良であるとか、極悪非道な裏社会と繋がっているとか?」
「それはそれは」
セシリア嬢の公国は大きな国ではない。だが、他国を圧倒できる情報に精通している。つまり、彼女と交流を深めるということは、誰も知り得ない情報を掴める可能性があるということです。
見た目は可愛いアイドル風ではあるが、彼女こそが裏社会の情報屋であり、恐ろしい存在なのです。
「ですが、ぼんやりとして優しそうな方ですわね。エリザベート様」
「わっ、フライ様は、昔から素敵な方ですわ」
「ふふふ、そうですのそうですの。いいですわね」
女性同士が仲良く話をして盛り上がる。
そんなお茶会に乱入者が現れる。
「失礼する、セシリア嬢!」
乱入してきた男は、僕たちのテーブルまでやってきて、セシリア嬢の前に立つ。
そっと、エリザベートが僕に耳打ちをしてくれた。
「帝国侯爵家のエドガー・ヴァンデルガスト様です」
公爵家より位は落ちるが、帝国の高位貴族の登場に、お茶会の雰囲気がヒリつく。
空気を読まないとはこのことだね。




