学生ギャンブルはボートが一番
入学してから、僕はまだ一度も学校の授業に出ていない。
フラフラとして学園都市を楽しんでいる。
いや、この街には誘惑が多くて楽しすぎないか? お金があればなんでもできてしまう。
食事も、お酒も、遊びもやりたい放題。
この世界のしがらみを忘れて、もうあれだな。
ダメな大学生時代を思い出してしまうんですよね。
学園都市全体が、学生達が訪れられることを前提に作られているので、大勢で集まれる飲み屋がたくさん有り。魔法を使った遊び場所もたくさん存在する。
しかも異世界独自の遊びがたくさんあるので、僕は目移りしてしまう。
魔力を使ったボードゲームや、最近のお気に入りは、ボートレースだ。
室内に巨大な水槽が用意されていて、木で作られた六艇の船を、六人の魔導士たちが操作をして、魔力で浮かせて競争させるのだ。
酒場で開かれていて、お金を賭けるギャンブルなのだが、これが本当に面白い。
人が魔力を使って行っているので、八百長は当たり前。
選手達の中には本気でやっている者もいるのだが、八百長をしている者と、してない者を見極めるのが本当に面白い。
人を見る目も養えるというわけだ。
人を見て賭けるというシンプルながらも奥深い面白さがある。
実は学生都市に来る前、遊ぶところなんて存在しないつまらない勉強ばかりじゃないかと思っていた。
実際は、エルトール領よりも面白い! エルトール領もここに負けないカジノが存在する。だが行った事はない。
だけど、今後はお金がたくさんあるので、そっちにハマるのもありかもしれない。
前世では、節制するためにギャンブルはやったことがなかった。
どうして大勢の人がハマるのか理解できた。これは実に面白い。
本来、魔力コントロールを訓練するためのものだった魔導具を、まさかこんな形で使ってギャンブルにしてしまう人の発想が凄い。
開発者も思っていなかっただろうな。
学生の発想とは自由そのものだ。
「いた!!」
「うん? ジュリアじゃないですか、どうしたんだい?」
前に助けた獣人の女の子は、助けた日から、なんだか懐かれてしまっていた。
僕が街をふらついていると、声をかけてくるようになり、一緒に食事をするようになった。親しくなると遠慮なく、一人でも食事をしているようで、何度か店から請求を受けた。もちろん全てお支払いしてあげるよ。
僕は貧しい者に恵みを与える貴族だからね。
彼女の名前はジュリアで、秋田犬を思わせるモフモフな毛並みと、茶色い髪をしているので、ペットのような気分で可愛がっている。
「フライ様! あの怖いお姉さん達が探してたよ」
「おや、それはいけませんね。流石にサボって賭け事に興じているのがバレては、学校に強制連行されてしまいます」
「全く、普通に学校に行きなよ」
ジュリアと食事をしている際に、二人に見つかったことがある。
「フライ様! ここにおられたのですね?!」
「どうしたの?」
「なかなか家にお戻りになられないので、お顔を拝見しにきたのです!」
「はは、ちゃんと毎日帰っているよ」
「夜遅くに帰ってこられて、私たちが登校する時間に寝られているではありませんか?!」
エルザベートにアイリーンは頬を膨らませていた。
ただ、僕に会えないという理由で怒るのは勘弁してほしい。
しかも、一緒に食事をしていたジュリアを見て。
「それになんです。この汚い子は?」
「あ〜ジュリアは、学園都市で出会った子で」
「フライ様のお側にいるなら、身なりは整えなければなりません!」
相変わらずのエリザベートの強引だ。
ジュリアは連行されて、美少女二人にお風呂に入れられた。
そのときの洗われた経験から、二人のことを怖いお姉さんと呼んでいる。
まぁ、そのおかげで現在はモフモフな秋田犬に似ていることも分かったわけだけどね。ジュリアにとってはトラウマで、二人に対してかなりビビっているようだ。
ボートレース賭博場を後にして、路地裏に入ってジュリアと身を隠す。
「む〜ボクは隠れる必要はないのに」
「はは、乗りかかった船だよ。それに、ジュリアも追われている身でしょ」
「むっ!」
彼女がどうして食い逃げをしたのか? それは奴隷としてこの学園都市に連れてこられたからだ。そして、彼女は奴隷商人から逃げているところなのだ。
獣人も通うこの学校で、見せしめのように獣人の奴隷を連れ歩く人族。
僕としては品性を疑うレベルだが、それがこの世界では当たり前だという。
神経を疑いたくなるが、奴隷制度はどこの国でも認可が降りており、平和な前世とは違うのだとつくづく思い知らされる。
「それにそろそろジュリアも自由の身になれるよ」
「えっ?」
学園都市は中立であり、奴隷の売り買いは他の都市よりも小規模なものだ。
だから、そこの大元締めからすれば、余所者の奴隷商人などお呼びではない。
「数日もすればわかるよ。さて、ほとぼりも冷めたね、行こうか?」
「ほとぼり?」
驚くジュリアのモフモフな頭を撫でてやり、手を繋いで大通りに出ていく。すると、エリザベートとアイリーンに出会した。
「こんなところにおられたのですね。フライ様」
「はは、ちょっと飲みすぎてね。路地裏で休んでいたんだ。ジュリアが看病してくれていたよ」
「そうでしたか、それよりも決着がつきました」
「そうか。エリザベート、ありがとう」
「いえ、《《今回も》》フライ様の言われた通りでした」
「たまたまだよ。僕は適当に当たりをつけただけだからね」
適当に言ったことが当たったようだ。まぁ、これでフラフラする理由も完全になくなったので、そろそろ学園に通うしかないかな。
「これで、約束通りに学園に行ってくれますね?」
アイリーンが大きな胸で私の左腕をホールドする。
「約束ですよ。わたくし達と学園に行くと」
エリザベートも負けじと、右腕をホールドして、完全に捕まってしまった。
「ジュリア、君もおいで」
「えっ?」
「今後は、君は僕のものだ」
「フライ様のもの?」
「ああ、君の所有権は僕に移ったからね。よろしく、僕が君のご主人様だ」
ジュリアは呆然としていたけど、まぁ何が何かわからないよね。
説明も面倒なのでしないけどね。




