表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
お気楽公爵家の次男に転生したので、適当なことを言っていたら英雄扱いされてしまった。  作者: イコ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

1/29

転生したけど、私は平凡でした。

 変わり映えのしない人生に変化を求めていた。


 人とは違う人生を歩みたい。そんなことを思っても結局は世間の歯車の一つとして、会社にいって時間を潰して、友人たちとバカな話をして酒を飲む。


 楽しみなどそれぐらいしか存在しない。いや、若い頃にはいくらでも楽しみは存在していた。


 だけど、歳を重ねるごとに、いつからか楽しみは減っていった。体も鈍って動かすことが億劫になっていく。


 老化は、心から始まると聞いた。だけど、そうなのだろうか? 昔は運動が得意だった。


 恋愛だって、女性を口説くために友人たちと作戦を練った。身なりを気をつけて、お金がないので、バイトに明け暮れて。やっとできた恋人がいるくせに、他の女性を口説こうという意欲もあった。


 だけど、どれも歳と共に倫理に囚われ、理性という檻と、若くないという戒めによって制限される。


 誰かに迷惑をかけることをしてはいけない。


 ただ大人しく仕事をして、お金を稼いで、ささやかな楽しみにお金を注いで、老後を待つだけの日々。そんな日々で本当にいいのだろうか? 不意に訪れる疑問は不安を与えてきて、少しでも何かに夢中になりたいと思って、本を手に取った。


 最近は電子書籍や、WEB投稿も増えているから、いくらでも現実から離れて物語の中へ没入することができる。


 そんな中でも戦略、戦術、謀略、計略、政変など、戦争が起きる小説が大好きで読み漁っていた。だからと言ってオタクになれるほど真剣でもなくて、戦略戦術を覚えられるわけでもない。


 ただ、物語の中に出てくる英雄たちに憧れ、彼らのような冒険をして、活躍してみたい。もしくは大金持ちの子供に生まれ変わって傍若無人に振る舞ってみたい。


 はたまた、悪役になってカッコ良いセリフを告げながら散っていく。


 どんなキャラクターも憧れの存在だった。いつか生まれ変わるなら、そうなりたい。


 平和なことは美徳であり、平和な世界に生まれたことは幸せなことだ。それは間違いない。だけど、能力も平凡で英雄になれる素質も存在しない。


 自分にとって幸福とはなんだったのだろうか?



 ♢



「オギャーオギャー」


 変化が訪れたことに気づいたのは、赤ん坊の鳴き声を聞いた時だった。


(えっ? どういうことだろう? 身動きが取れない。目が霞んで自分の体とは思えないほど動くのが億劫だ)


「あらあら、フライは泣き虫ね。お兄ちゃんはそんなに泣かなかったわよ」


 女性の声が聞こえたと思えば、突然、体を持ち上げられました。


(なっ!? 僕を抱き上げているだと? ここは病院か何かなのか? 看護師さん、凄い力持ちだな!)


 頑張って目を開けようとして、薄ぼんやりと見える景色には、赤茶色の髪色と、記憶ではお会いしたことがない西洋風のお顔立ちをされた若くて美しい女性が見えた。


 その白い肌に紅瞳が印象的な人が、僕に向かって微笑みかけてくれている。


「ほら、ご飯でちゅよ」


 突然、女性が服をズラして胸を露出する! なっ! いけない。若い女性がこんなおじさんに肌を晒してはいけない! 僕は辞めさせようと手を上げようとするが、全く動かない。


 大怪我をして身動きが取れなくなってしまったのだろうか? 身動きが取れない。

 

 くそっ! こんな幼児プレイを強要されてしまうとは? くっ! 彼女の胸が僕の口元に当たって、ミルクを飲まされる。さぞ、滑稽な姿でだろう。


 だが、神よ。あなたに言いたい! 神よ。あなたは存在していたのだな!


 ここで初めて気づいた。僕は赤ちゃんなのだ! 女性の胸に当たった口が小さくて、胸を抱きしめるその手は赤ちゃんそのものである。


 赤ちゃんになったのはわかるのだが、若い女性にミルクを飲ませてもらう趣味はない! 断じてないと言いたい! もう少し意識が戻るを遅くできなかったのか? 神様、もっと空気を読んでください!


 ただ、不思議なものです。


「フライ、私はあなたの母ですよ〜いっぱい飲んで早く大きくなってね」


 彼女が僕の母? だからだろうか? 母から与えられる温かさは、幸福を感じられる。味など全くわからない。だが、僕は自ら変化を望み。神様は変化を与えてくれた。


 それは久しく忘れていた刺激に他ならない。


「フライ。あなたはエルトール家の次男です。あなたの兄を支える役目を持って生まれてきたのです。元気に育って、しっかりとお支えするのですよ!」


 僕が意識を取り戻してからの日々はあっという間に過ぎていった。


 母乳と排便処理という苦行を幾度も超えて……。


 ♢


 改めて自分のことを整理する。


 名前はフライ・エルトール。現在五歳だ。


 羞恥心に耐えながらも、母から与えられたミルクを飲み干した日々を決して忘れない。


 心から望んでいたなんてことはございません。はい。ございませんとも!


 転生者として、数十年を生きた記憶を持っており、趣味は読書で、物語の世界へ入り込むことが好きだった。


 そして、目覚めたこの世界は、転生前に読み進めていた『ファルグリア大陸戦記』という小説に類似しており、ファルグリア大陸では、将来的に大陸を巻き込む大戦乱が巻き起こる。


 戦乱の中では、多くの英雄たちが誕生しては死んでいく。


 悲しきドラマがある物語だったはずだ。


 だが、小説の中にフライ・エルトールという人物を、僕は知らない。


 いや、エルトール公爵家は大陸の四分の一を支配する帝国の最上位貴族であり、物語にはもちろん登場する。


 ただ、フライ・エルトールなる人物は影も形も存在しない。つまりは、モブオブザモブ。僕の人生が生まれ変わったとしても、平凡ということだろう。


 ただ、生まれながらにお金持ちの次男。しかも、ファンタジー世界。剣と魔法が織りなす戦乱の世の中一歩手前。


 滾るなという方が無理がある? 僕に心の老化が嘘のようにはっちゃけた。


 僕、わくわくするぞ! 今から鍛えまくって最強になってみるのもいい。それとも暇なので魔法を極めようか? どんな道でもやり直せるって最強だ!


 こんなのいくら生き返らせてもらってもいいですからね。



 ♢



 はは、生まれ変わっても性根が変わるとでも? 無理無理。


 現在十五歳になりましたが、平凡なままでした。


 確かに努力をしようとした。


 WEBやラノベによく出てくる。魔力を使い果たしたら、魔力量が増える法則を試してみた。いや、あれって魔力を使う前に頭痛と吐き気がして、物凄くしんどいんくて苦行すぎる。


 なら、剣術を幼い頃から鍛えて最強に? もっと無理だよね。現代で平和に暮らしていた人間が、筋骨隆々な大人たちに混じって剣を振るっても一向に強くならない。


 むしろ、ぶっ飛ばされたり、公爵家の息子として手加減される程度だったね。


 誰も本気でやらない。まぁ、最初は剣を振るうことが楽しくて、剣に一時期ハマって振りまくったけどね。全然強くなれなかった。


 好きな戦記物の知識を活かして、戦術や戦略なんて覚えていれば良かったけど、全く覚えていないんだよ。


 軍師としての素質も皆無。


 ちょっと神童と呼ばれることも期待してたんだけどな。


 最終着地は、ぼんやりとしている大人しい少年としか家では見られていない。平凡な貴族家次男として育てられましたよ。


 ただ、若さとは凄いものだ。教師として、ついてくれた方々の指導が良かったのもある。


 マナー、歴史、魔法基礎、剣術はそこそこできるようになるのだ。


 若さ万歳。


 無理に魔力量を増やさなくても、筋肉痛で動けなくならなくても、適当にしていれば、それなりになるものだ。


「フライ! 貴様はやる気がないのか?」

「兄上、そんなことはありません。ただ、僕は兄上の代替品です。父上からも、母上からも、兄を支えなさいと育てられました」

「それはそうだが! お前は悔しくないのか?!」


 兄は熱血男です。全てに全力投球であり、弟が言ったことでも、素直に守るってくれる良い兄です。


 僕が魔力切れの訓練をしている時などは。


「何をしているのだ? どうして、そんなにも魔力切ればかりを無理するんだ?! 命がいくつあっても足りないではないか?!」

「兄上。これは魔力量を増やすためにやっているのです」

「そんなことで増えるはずがない! 誰もそんなことを教えてはくれなかったぞ!」

「兄上は子供ですからね。まだ大人のいうことを聞いて良い子ちゃんなのです」


 あの頃の僕は転生者優位主義でしたからね。


 幼さにかまけて、兄上を煽ったものだ。


「むむむ、確かに教師たちのいうことばかりを聞いていてはいけないな」

「そうでしょうそうでしょう。兄上もやってみてはどうですか?」

「うっ? しかし、魔力切れを起こすと頭痛と吐き気が……」

「恐いんですか?」


 挑発すると、兄上はすぐに乗ってきた。


「怖くなどない! やってやる」


 兄上が七歳の頃で、可愛かったですね。

 


どうも作者のイコです。


ネット小説大賞14応募作品になります。


ブックマークや、星を頂ければ作者が泣いて喜びます。


どうぞよろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ