01 出会い
当てもなくとぼとぼと歩く。
生まれた時からこの土地で育ち、見慣れた景色。
ここは王都ルクシア、城下町。
港もあって、商人も行き交い易く住みやすい結構賑やかなところ。
エルム=ダリナは学者の娘として生を受けた。
両親は学者としては優秀なのだろう。
親としては…なんとも言えないが。
家にはジョフィア=エルフィーナという遠縁の少年が一緒に住み、共に学校に通っている。
ジョフィアは1つ下だがエルムを姉のように慕っているのか、いつもくっついてくる。
いつも、いつもだ。
(甘いものが食べたい気分だわ)
気分に合わせて城下町の露店がある場所へと移動することにした。
◇
(アイスクリーム…クレープ…うーん、どうしようかな)
どんっ。
露店に視線がいき、人にぶつかってしまった。
「ごっ、こめんなさい。よそ見してて…大丈夫ですか?」
「いやっ、オレのほうこそちゃんと前を見ていなくてすまなかった。
怪我はないか?」
ぶつかった相手は紫がかった銀色の髪の爽やかそうな青年だった。
年は17.8くらいだろうか。
「私は大丈夫です。
ここって美味しそうな露店が多いので目移りしちゃいますよね」
クスッと、その発言により場が和やかな空気になる。
「ああ、そうだな。うまそうだ。良かったらおごるよ」
「えっ!? いえ、そんなつもりで言った訳ではないので大丈夫…」
「おごらせてよ。その代わりちょっと付き合って欲しいんだ。
1人で食べるのは味気なくてあまり好きじゃなくて」
「私は知らない人とのお食事はちょっと…」
「オレはフィート! ほら、これでもう知らない人じゃないだろっ?
お前の名前は?」
にーっとその人は笑う。
なつっこく、悪い人ではなさそうだ。
「…はぁ、分かりましたよ。ぶつかったのも何かの縁だと思ってお付き合いしますー。
私の名前はエルムです」
ふーっとため息。今日何度目だろう?
「よろしくな、エルム。
じゃあ早速。オレ、あれがいいな!」
「クレープですか?」
「そうそれ! 中に色々入れてるのをさっきからずっと見てたんだ。」
「分かりました。フィートさんはどれにしますか?」
「んー…エルムはどれにする? あと、おすすめはどれ?」
「私はこの苺のにします。
おススメはこのチョコとアイスのと…あとこれも好きでよく食べますね」
「分かった、ありがとう。
おっちゃん! この苺のとチョコとアイスのやつ1個ずつね!! これお代、ここに置くよ」
「あいよっ。
さいっこーに美味いクレープ作ってやっからちょっと待ってな」
フィートは悪い人ではないが、結構強引な人かなとエルムは思った。
◇
「あっちのベンチに座って食べようか」
結局訳が分からないまま、初対面の男性とクレープを食べている事になんだか少し、おかしくて笑みがこぼれる。
「どうした?」
「ふふっ、フィートさんって面白い人だなって思って。
いつもこんな感じなんですか?」
「そうだなぁ。いつも一緒に行動してる奴がいるから1人だと食事もつまんないよなー。
あ、エルムの苺のほうもちょっと頂戴」
「…え、ちょっ、えっ!?!?」
そう言うなりフィートはエルムの手の中のからクレープを食べた。
エルムは、信じられない、とそんな表情になった。
「ほら、エルムもオレのチョコとアイスのやつ、どーぞ」
「いえ、私は…」
「遠慮すんなって。これも好きなやつなんだろ?」
ずいっと出してくるフィート。
だがエルムが思ってるのはそういう事じゃなく。
「いえ、あの、人の食べかけを、ましてや初対面の異性の方は…」
「へっ? えっ、あっ…あぁー! またやっちまった。悪い、ライラ相手のつもりでつい――
そんなつもりじゃないんだ、悪かった。
ライラから逃げてきたのに、ライラと一緒にいる感覚になるほどいつも一緒にいるって事か」
「ライラさんという方から逃げてるんですか?」
「あー、あいつなー。煩いんだよ。
口を開けばもっと自覚を持てだの、ちゃんとしろだの…全く。
オレだって色々考えてるんだけどなぁ。
まぁでもこれ食べたら帰るかな…あんまり心配させてもまた後で煩くなるだけだし」
「楽しそうにその方の事をお話しされるんですね。
私にもいますよ、いっつもくっついてくるのが。
結構煩わしいですよね、なかなか1人の時間も取れなくなっちゃうし」
「ははっ、じゃあ解放される為にももう少しのんびりしよう。
食べたら公園の散歩道にでも行こうか。
…いやまて、そこだとライラに見つかるかもしれないから港にでも見に行こう」
「港か…いいですよ、行きましょう
ところで逃げてるって何したんですか?」
どんな縁なのか、フィートと港に行くことになった。
全てはここから始まる。