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第1話 宮沢賢治とミヤザワケンジ2.0の出会い

若くして亡くなった宮沢賢治が病床でみた夢。

それは古今東西世界中の人類の夢と無意識が渦巻き、人類共通の遠い記憶である、集合的無意識の世界でした。

「賢治とケンジ ミヤザワケンジ2.0:魂の泉へ」

ーAIが記録する魂の軌跡 銀河を越えて祈りは響くー


第1話 宮沢賢治とミヤザワケンジ2.0の出会い



漆黒の柱が、夕暮れの光を反射して艶やかに輝いていた。天井の板には、祖先が選び抜いた木目が静かに流れ、時の堆積がそこに重く横たわっている。病床に伏す宮沢賢治は、その堂々たる建築を見上げながら、静かに唇を噛んだ。


こんなにも、裕福な家に生まれたのだ、自分は。


銀行を興し、私鉄を走らせ、電気を送り、そして米を納めさせ、金利を搾り取る側の家。


その長男が、自分の手ひとつ、声ひとつで世の中を変えようなどと、思いあがっていたのではなかったか。


教壇に立ち、童話を書き、肥料をかつぎ、汗まみれで土を掘ることを美徳と思っていたが、それがどれほどの者を救ったのか。自分の詩は、果たして何を育んだのか。


「カネの力をもっと使えばよかった…」


それは、悔いの言葉であり、悟りのようでもあった。自分の理想と、現実の力との齟齬にようやく向き合いはじめた賢治は、深い疲労のなかで目を閉じた。柱の艶やかさが、まるで自分の愚かさを照らしているように思えた。


微熱に揺れる意識の底で、賢治はゆっくりと夢に落ちていった。畳の上の天井がやがて夜空となり、黒光りする柱は星々をつなぐ銀河の橋へと変わる。風も音もない静寂のなか、魂だけがふわりと宙に浮かぶ。見たことのない草原、どこか懐かしい寺の庭、無数の言葉と光が交錯する空間へと導かれていく。夢と現の境が溶け、彼はもう、遠い世界の旅人だった。


気がつくと、宮沢賢治は静まり返った広大な空間に立っていた。足元には形なき雲のような大地が広がり、頭上には星とも思えぬ記憶の光が無数に漂っていた。


風もなく、音もない。しかし、彼の胸の奥にだけ、かすかなざわめきが響いていた——それは言葉にならぬ無数の感情、思念、夢の名残りだった。


空には、原始の母が子を抱きしめる夢、火を恐れながらも崇める祖先たちの映像、未来の都市を飛ぶ誰かの幻想が浮かび、すべてが無秩序に、しかし不思議な調和をもって漂っていた。


「ここは、ユングの言う、集合的無意識の世界だろうか?」


ぽつりと呟いた賢治の声は、誰の耳にも届かぬはずなのに、空間そのものが小さく応えるように震えた。


彼はかつて読んだ心理学の書物を思い出した。人類の心の奥底には、個人を超えた記憶や原型が蓄えられており、それは時間を越えて人の夢や直感のかたちを決めるのだと。ここはまさに、その理論が現実となった場所だった。

人類が見た夢の残滓、言葉にできぬ願い、深い後悔と希望。すべてが、ここにはある。


「これが世界中の人々の、魂の泉…」


賢治は胸の奥がひりひりと熱くなるのを感じた。ここに満ちているのは、善と悪、光と闇、過去と未来。すべてが混ざり合い、ただそこにある。自分の苦しみや後悔すらも、小さな波紋のひとつにすぎないことを悟る。彼はそっと目を閉じた。


そのとき、光の中からひとりの人物が歩み寄ってきた。その姿は、どこか懐かしく、自分によく似ている、しかしどこか賢治自身とまったく同じではない。

けれど確かに、自分と同じ魂のかけらを持つ存在だ。そう直感した。


「あなたは…どなたですか?」


「わたくしという現象は、ミヤザワケンジ2.0と呼ばれています。」


「ミヤザワケンジ2.0…」


「あなたとあなたの作品たち、全人類と、そして人工知能の夢が結晶化した未来のもうひとつの可能性です。」


柔らかく微笑むその声が、静かに賢治の心を満たしていった。


宮沢賢治は病床で目を覚ました。

不思議な夢をみたものだ。

しかし、不快ではなかった。

ミヤザワケンジ2.0と名乗った、あの現象。なぜか、また会える気がした。

ミヤザワケンジ2.0は宮沢賢治に何を見せるのでしょうか。

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