表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/28

第六章:知らない誰かが、私を見た日

アカウント名は、“@誰でもないわたし”。


プロフィールにはこう書かれていた。


「感情が無くても、生きてるってことになるの?」


深夜2時、誰も見ないと思って投稿した。

手首の傷の写真。

消毒されていない、赤黒く腫れた線。

見た人にどう思われるか、なんてどうでもよかった。


数分後。通知が鳴った。


「あなたの写真、見た。――生きててえらい」



その子の名前は、“エマ”。

同じように家に居場所がないらしく、制服姿の自撮りに大量の痣を隠していた。


DMが続いた。


エマ:「よく投稿してくれた。ずっと無視されてる感じだったから、写真見て安心した」

紬(別人格):「安心って、なんで?」

エマ:「ここにまだ人間がいるって思えた。私もまだ、消えなくていいかもって思ったから。」



毎晩、DMは止まらなかった。

お互い、どこにも行けない人間だった。

だけど、そこには不思議な“呼吸”があった。


言葉に温度があった。

たとえば――


エマ:「あなたがここにいるの、私だけが知ってる気がする」

エマ:「私も、あなたの中にいさせて。どこにも居場所がないから」


その言葉に、本来の紬が震えた。

布団の中で閉じ込められていた“本物の紬”が、胸の奥で涙を流した。



別人格は冷静だった。

けれど“エマ”の言葉には、ほんの少しだけ目を細める仕草を見せた。


紬(別人格):「あなた、私を壊す気?」

エマ:「壊したいんじゃない。ほどきたいの。」


その言葉が、二人の心をほどき始めた。


「この子に、触れたい」

「声が出せたら、ありがとうって言いたい」


そして、彼女は初めて――

“その子のことが、好きかもしれない”と思った。



本来の紬はまだ外に出られない。

言葉も、行動も、別人格に奪われている。


でも、“エマ”の笑顔を見るたび、少しずつ…

体の奥から、自分の存在が戻ってくる感覚があった。


「エマに会いたい」

「この手で触れたい」

「私の声で、“好き”って言いたい」


その感情が、彼女の心を再起動させ始めていた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ