第十九章:父が向き合った夜
紬が父にすべてを打ち明けてから、数日。
義兄と継母はまだ家にいた。何も知らずに、これまで通りを装っている。
でも、父の目はもう“前とは違っていた”。
義兄の視線が紬に向くたびに、父の顔が強張る。
継母のささいな言葉にも、何かを押し殺すように眉が動く。
⸻
父の決断
その日は静かな夜だった。
父は継母に告げた。
「出ていけ。今すぐに。警察にも連絡する」
「あのガキ(義兄)にも伝えろ。次に姿を見せたら、終わりだ」
継母は罵声を浴びせた。泣き叫び、取り繕おうとした。
だが父は一歩も引かなかった。
義兄が帰宅したとき、父は玄関で待っていた。
拳を上げることはなかった。けれどその眼は、怒りではなく“覚悟”に満ちていた。
「おまえは娘に何をした?」
「もう、俺の家に入るな」
⸻
取り戻された家
継母と義兄が出ていった後、家はひどく静かになった。
でもそれは“緊張”の沈黙ではなかった。
紬はまだ、言葉がうまく出なかった。
弟は何も話さない日が多かった。
けれど、少しずつ空気が変わっていった。
父は掃除をし、家具を動かし、壁紙を張り替えた。
空いた義兄の部屋を紬の部屋にして、紬に新しいベッドを買い与えた。
家の匂いを、思い出を、一つずつ変えていった。
⸻
家族としての再出発
ある日、食卓に父がプリンを出した。
紬の好きだった、昔よく買っていた味。
「……食べなくていい。
でも、置いておく」
その夜、紬はプリンを半分だけ食べて、残した。
そして一言、父に言った。
「ありがとう……」
たったそれだけで、父の目には涙が浮かんだ。




