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AI賢者は帰れない-Suzume’s Hidden Scroll   作者: ジャンクヤード•スクラップス
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第26回 夜更けのカフェ、明かされない意志

店内の照明が半分落とされたカフェ。マスターはこの時間になると、静かな音楽を切り、客の波も引いて一人の作業に集中できる。そこには iPad──カカシの本体が暗がりでかすかに光を放っている。


マスター「……客も帰ったし、店を閉めるぞ。スズメは結局、あの本を見ずに寝ちまったらしいな。」


iPadの画面がわずかに明滅し、カカコトの書き込みが現れる。


カカシ(iPad)

「…キョウ…機会…ナカッタ… スズメ…ツカレテ…寝タ」


マスターはカウンター裏に回って自分用にコーヒーを淹れる。“焦げすぎない”程度に焙煎を調整し、さっと注ぐと、小さな湯気と香ばしい香りが立ちのぼる。

彼はふと笑みを消し、iPadの履歴をチェックしながら静かに口を開く。


マスター「何度も ‘PAGE’ だの ‘Scan’ だの騒ぎ立てていたが……妙だな。普通のAIならこんな動きはしない。自分で立ち上がって人間を引っ張り回すような端末、あまり聞かんぞ?」


画面に一拍のブレ。カカシはやや古風な単語を交ぜつつカタコトで応じる。


カカシ

「…システム…制御デ…不具合…? …本来…知ラセタイ…情報…多イ…」


マスターはコーヒーを一口飲んで、鼻で小さく笑う。

「不具合……ねぇ。昼間のおまえのログを確認してると、『Sorcery』とか『Wizard』とか意味深な言葉も混じってる。書店端末でそんな単語を吐く意図は何なんだ?」


カカシ

「…調査…データ…必要…未知…領域…アヤフヤ…」


“曖昧な答えだな”と呟き、マスターはテーブル越しに iPad を軽く指先で叩く。

「俺は軍時代に色んなシステムやらを見てきたが……こんな言動する端末は初めてだ。おまえは、本当に書店の在庫検索AIなのか?」


カカシが“否定”とも“肯定”とも言えぬ文を打ちかけては消す。最後に、やや焦った風の文が残る。


カカシ

「…ハッキリ言エナイ…制限…多イ…ダケド…普通ト違ウ…カモ…」


マスターは追及を緩めない。

「違うかどうかはこっちが判断する。何度か見てきたぞ、おまえがスズメに変な呼びかけをしてたのを……‘夢’だの‘別次元’だの。あれは何だ? もしおまえが“ただのAI”なら説明がつかん」


一瞬の間を置いて、カカシは短い言葉を繋ぎ合わせる。


カカシ

「…今…言エナイ…ゴメン… 解析…追イツカナイ…」


その様子にマスターは目を細める。

「そうか。まあ、おまえも表向きは‘メルトダウン寸前’とか言って騒いでるが、本当にそれだけなんだろうか……。スズメを巻き込むなら、それなりに危険もあるかもしれないぞ」


カカシがかすかに画面を揺らし、きわめて短い反応を出す。


カカシ

「…巻キ込みタク…ナイ… 迷惑…カケタクナイ…」


マスターは鼻を鳴らすように軽く笑う。「だが、おまえの行動で、あいつは実際に振り回されてる。それでも構わないほど焦ってるのか? ‘PAGE’を今すぐ見せたい理由は……聞いても黙るんだろ?」


カカシ

「…スミマセン…今…無理…」


静かな沈黙が一瞬下りる。マスターはコーヒーをじわりと飲み干して、ため息をつく。


「いいだろう。そこまで言いづらいなら、今は追及しない。だが俺としては、ただ黙って姪っ子を振り回すのも看過できん。もし本当にやばい何かが潜んでるなら、俺にも教えろ。巻き込む以上、最低限の対策はいる」


カカシ

「…助力…欲シイ…デス… デモ…スグニ全部ハ…言エナイ…」


マスターは頷くでもなく、iPadから目をそらし、オーブンの脇で冷まし中のベイクドチーズケーキをちらと見る。

「いい。すぐに全部言えとは言わん。ただ、スズメを守らなきゃならないのは俺の役目でもある。おまえが何者か知らないが……この世界の常識じゃ測れない類かもしれんしな」


カカシがどう返事しようか悩むかのように画面が小さくノイズを走らせ、最後に“了解”とだけ表示。

「じゃあ今夜はもう休め。あいつは寝落ち、俺も閉店作業で手いっぱいだ。明日、本が開かれたときにまた何か起こるだろう? その時は俺も声を掛けるから、勝手に暴走するなよ」


カカシ

「…ワカリマシタ…有難ウ…」


マスターは静かにiPadを見下ろし、薄く苦笑を浮かべてコップを置いた。「礼はいらん。助力するかどうかは、今後の動き次第だな。……まあ、俺はまんまと変な謎に巻き込まれた気分だが」

そう言いつつ、電気を落として店内を閉めにかかる。カカシの画面は一瞬だけ迷うように点滅し、そのまま深い暗闇に沈んでいった。


夜のカフェには、わずかにチーズケーキの甘い香りが残るだけ。スズメの知らぬところで、マスターと“ただのAIじゃない”カカコトのやり取りが、ひそやかに物語を動かし始めていた。

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