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AI賢者は帰れない-Suzume’s Hidden Scroll   作者: ジャンクヤード•スクラップス
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第14回 ひっそり古書コーナーの小さな魔法

 朝の新刊コーナーを一通りチェックし、少しだけ余裕ができたスズメは、郷土史や古地図の並ぶ静かなエリアへ向かった。ここは普段から人通りが少なく、スタッフもほとんど来ない場所だ。古い紙のかすかなにおいが漂い、薄暗い棚の奥には分厚い背表紙がずらりと並んでいる。


「この時間なら、ゆったり整理できそう」


そう思って背表紙を確認していると、落ち着いた雰囲気の中年男性客が近づいてきた。

「すみません、ここに昔の地図が載った本があると聞いて…」

穏やかな声音だが、探し物への熱意が滲む瞳だ。スズメはエプロンを直し、「はい、ご案内しますね」と微笑む。棚には埃をかぶった郷土史関連の本が所狭しと並び、その一部は文字が黄ばんで判読しづらくなっている。


「地図の資料なら、このあたりに…」

彼女が手を伸ばしかけた瞬間、隣の分厚い本が“すっ”と飛び出してきて、スズメの腕に触れかけた。

「え、今の…?」

お客さんも驚いた表情で、「本が勝手に動いたみたいに見えましたよね」と言う。空調も弱く、棚を揺らすほどの力が加わった覚えもないのに、奇妙な話だ。


咄嗟に受け止めた本は勝手にページを開き、そこから黄ばんだ紙が一枚、床に落ちる。イラストとも文字ともつかない不思議な図柄が描かれており、郷土史本の内容とは明らかに合わない。

「何でしょうね…紛れ込んでいたんでしょうか」

スズメがそれを拾い上げると、かすかな静電気のような感触が指に走った。お客さんも眉をひそめるが、彼の探し物は別の本に載っているようだ。彼女が近くの別冊を紹介すると、中に目的の地図が見つかり、「あ、これです!」と安堵の表情を見せる。


「よかったです。ではレジへご案内しますね」

客が去ったあと、スズメは再び飛び出した本を振り返る。今は何事もなかったように棚に収まり、動く気配など微塵も感じない。

「絶対気のせいじゃないと思うんだけど…」

彼女がエプロンのポケットをそっとなでると、さっき拾った紙がガサリと音を立てる。腕時計型の端末カカシが控えめに振動し、袖の下で


「(O_O) ソレ…ダイジ…!

(>_<) アトデ ミテ…!」


と表示していた。スズメは「あと数時間でシフトも終わるし、それからね」と心の中で応じる。


昼休憩:スタッフルームにて


昼過ぎに少しだけ休憩が回ってきたが、バイト中の外出は遠慮する決まり。そこでスズメはスタッフルームのベンチで一息つきながら、スマホ画面を使いカカシと軽くやり取りした。


「やっぱりあの紙、オズのスピンオフ本に似てるかも。捨てずに保管してた、あの古書…」

あれは書店の廃棄予定品をカカシが「ステナイデ…」と訴えたため、スズメが家に持ち帰った代物だ。ほとんど白紙同然だったのに、どこか気になる存在感があった。


「(O_O) アンシン デキナイ…

(>_<) イマ、 セツメイ ムズカシイ…」


店内の設備を勝手に使って深く解析すると危ないので、彼女は「わかった。シフト終わりに外で話そ」とスマホを閉じた。休憩が終われば午後の業務があるし、すぐに戻る必要がある。


15時、バイト終了後のカフェ


ようやくシフトを終え、スズメはエプロンを外して近くのカフェへ向かった。店内は静まり、マスターがカウンター越しに「お疲れ」と軽く手を上げる。カカシの“本体”たるiPadは、文字を揺らしながら「スグ ミセテ…!」と催促していた。


「はいはい、落ち着いて。あの紙、これだよ」

エプロンのポケットから黄ばんだ紙を取り出してiPadにかざす。見るからに子ども向けの挿絵のようで、でも何か歪んだ文字が加わっている。

実際にスキャンを試みようとアプリを立ち上げるが、iPadが熱を持ちすぎてファンが唸りだした。マスターが慌ててクーリングを起動してくれたが、カカシは「(>_<) アツイ…ムリ…」と大きく文字を出し、解析は断念せざるを得ない。


「しょうがないな。家であのスピンオフ本と照合してみるしかないか…」

そうつぶやいて彼女はコーヒーを一杯飲み、急いでカフェを後にした。あの古書――カカシとの出会いの頃に回収した代物――を改めてじっくり調べれば、今回拾った紙の謎も解けるかもしれない。


夜、自宅での照合


部屋に戻ると、スズメはさっそく机に“オズのスピンオフ本”を広げ、紙をそっと重ねてみる。長らく正体不明だった古書だが、挿絵や文字の断片が奇妙な雰囲気を放っている。ただしここ最近まで白紙同然だったページも多く、読める箇所は限られていた。


「やっぱり、ここの絵と合いそう…」

そう思った刹那、紙がふわりと消えたように視界から消失する。

「あれ、どこ行った!? え、落ちたわけじゃないよね」


慌てて床を探すも見当たらない。代わりに、古書のあるページを見ると、かすれていたはずの博士らしきイラストが鮮明に浮かび上がっているではないか。ぼんやりしていた線が急にくっきりして、下には何やら文字列まで追加されている。

「嘘でしょ…いきなりアップデートされたみたい…」


スマホで撮ろうとしても、写真には以前のように薄れた絵しか写らず、実際の鮮明さはカメラ越しには捉えられない。手で触れてみても質感は変わらず、ただ“絵が復活した”事実だけがそこにある。

腕時計を見ると、カカシが「(・_・;) ドウナッテル…」「(O_O) ショウメイ ムズカシイ…」と表示して焦っている。


「わたしだって分からないよ…でもこれ、どう見ても同じ挿絵が戻った感じがする……」

紙は行方不明になり、本だけが勝手に“更新”されたような状況。戸惑いを抱えながらスズメは深呼吸してた。あれだけ動揺したのに、不思議とワクワク感もある。


“カカシと出会った頃に回収したあの古書は、やっぱり単なるボロ本じゃなかったんだ――”


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