これは夢じゃない
よくよく考えたら主人公の名前まだ出てないしエピローグも終わってませんね
次回からちゃんと冒険パートになりますのでよろしくお願いします……
絶望の中を突然、酷い耳鳴りが襲った。
頭の中でキンキンと鳴り響くノイズのような甲高い音に耐えられず、椅子から転げ落ちるようにうずくまる。
直接鳴り響くような音は次第に激しいめまいと頭痛を引き起こし、嘔吐してもなお続く苦痛に耐えきれずに叫び声を上げるが収まらない。
時間にしては数分のことだったんだろうが、絶え間なく続くノイズに俺は意識を手放した。
轟く轟音、上がる火柱。
逃げ惑う人々の悲痛な叫び声。
辛うじて逃げた先では騎士のような人達が待ち構えており、嗤いながら次々と人を殺めていった。
泣き叫ぶ子どもも、抵抗のできない赤ん坊だってまとめて業火に焼かれていく。
見目のいい女は幾つであろうが嬲って殺し、その様を見せながら笑って殺す奴もいた。
はっきり言って地獄絵図でしかない。
凄惨さに目を背けると、シーンが切り替わった。
一際目立つ白い鎧に、黄金色に輝く金の髪。
この惨劇の主人公とでも言えるような人物が城へ突撃する。
一切の抵抗も出来ないまま次々に斬り捨てられていく使用人達。
1人も逃がさないようにして1部屋ずつ回る頃には、屋敷に敷かれている美しい赤色のカーペットが血でどす黒く染まりきっていた。
そして最後の部屋へと到達する。
中には美しい調度品と豪奢な家具が品良く収められており、中央には黄金色に輝く玉座が鎮座していた。
しかし中には誰も居ない。
お目当てのものがなかったのであろうそいつは、口汚く罵りながら顔を歪めたあと興味が無くなったとでも言うかのようにすぐに引き返し、門を出たところで雄叫びをあげる。
門の外で待機していた騎士達はまるでそいつがこの世界を救った英雄だとでもいうように士気を上げ、興奮冷めやらずといったように口々に賛辞を述べていく。
そして、人好きのする笑顔でそいつは街に火を放った。
次々に焼け落ちていく家屋、辛うじて生きていた人も煙に巻かれて生き残ることは出来ないだろう。
街全体に火が回ったのを確認してそいつは姿を消した。
またシーンが変わる。
息を切らして帰ってきた誰か。
全てが終わった辺りは燃え尽きており、唯一焼け落ちずに済んだ城でさえも生存者が居ないことを示すかのように静まり返っていた。
あれだけあった死体も姿形が見えない。
だが、黒く変色したカーペットや飛び散った乾いた血飛沫がそこであった非情な事実を突き付けてくるかのようだった。
最後の部屋で誰も居なくなった玉座で1人佇む。
握り締めた手から血が流れようが、悲痛に肩を振るわせようが、泣く事さえできないようだった。
『神よ!!!!これがあなたの信じた正義か!!!』
叫ぶ。
『何の罪もない私の同胞達が惨たらしく殺され、それで世界は平和になったとでも言うのか!!!!!
共存していただけの我らを虐げたヒトごときがそんなに高貴なモノなのか!!!!!』
叫ぶ。
『片方が虐げられ続けるだけの世界など、そんな世界などあっていいはずがない……』
力なく膝から崩れ落ちた。
震える声で呟く。
『生き残った我が同胞を助け出し、正しい方向に戻すべきだ。
そのためなら己の命ごとき惜しくない……
この身で良ければ喜んで差し出そう。』
目が合ったのと同時に突如足元が目映く光る。
錬成された魔法陣が部屋を覆い、あっという間に部屋が消えいつの間にか暗闇に2人で向かい合っていた。
その人はゆっくりとこちらに向かってくる。
そして足元で跪くと、明確に俺に向かって話し始めた。
『異界の旅人よ。どうかお願いだ。
貴方には何の関係もない酷い願い事だとは重々承知している。
だがこの世界を、起きた事を今その目で見ただろう貴方にしか頼めない事なのだ。
どうか勇者を殺し、この世界を正して欲しい。
我が同胞を……救い出して欲しい』
縋るような目で俺を見つめる。
おそらくこれにYESと答えると当分俺は元の生活に戻ることは無いのだろうと直感で感じた。
今抱えてる思いが同情なのか偽善なのかなんて俺には分からないが、迷うことなく言い切れそうだとは思った。
「……俺が殺すのは無理かもしれないが、必ず報いは受けさせられるようにするよ。」
『それでもいい。無理なお願いなのはわかっている。旅人よ……感謝する。
私の力を使ってくれ、きっと貴方の役に立つ。』
そういうと彼は俺に触れ、最後にニコリと笑ったあと身体が光に包まれ消えてしまった。
ふと意識が浮上する。
俺はまた夢を見ていたようだ。