抱擁下手のうらみごと

　ただのうらみごとです。

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　あふれないようにとおおきく

　てのひらをひらけば

　ゆびのあいだをこぼれてしまうし

　ゆびのあいだをこぼれないようにと

　てのひらをちいさくとじれば

　そのへりをあふれてしまう

　とがらせるばかりで

　ゆるみきったひじのボルトをしめなおして

　棒きれのような腕(かいな)で

　かかえこんで歩きたいけど

　くだけちろうとするたびに

　さびた鎹(かすがい)をうちつけて

　なんとか つなぎとめてきた胸での

　すきま風が笛を吹く抱擁は

　砂時計のくびれた腰ほども

　流失をくいとめてはくれない

　かといって 袋のねずみにとじこめて

　なけなしのチーズを好きにかじらせてやるほど

　こちらの懐(ふところ)ぐあいも かんばしくなくてさ

　チーズで まぁるく肥えたねずみの愛らしさは

　知っているというのに！

　ふぅ これいじょうのうらみごとは その矛(ほこ)さきを

　じぶんにむけるしかないじゃないか

　死人に鞭(むち)うつ じゃなくても

　割れ木に鉈(なた) 振るい

　ずたずたの袋を引き裂くようなものだから

　きょうのところは このくらいにしておこう

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　どこに矛先を向けたいのでもなく。