『5年後ラジオ』
「なろうラジオ大賞5」応募作品
真央って、どこかで聞いた事がある。
ー娘の名前は僕と妻の名前から一字ずつ取って『まお』ですー
思い出した。やっぱりあれは僕だった。
「こんばんは。新番組『5年後ラジオ』の時間です。この番組ではリスナーの皆さんの5年後の抱負を教えて貰います。早速お便りを紹介します。」
軽快な音楽の中、僕は椅子の上に立ち、天井に吊るしたロープを見つめた。今日リストラされたのだ。
「ペンネーム、恥ずかしがり屋のバンビさん。この方とは電話も繋がっています!」
「どうも。恥ずかしがり屋のバンビです。」
ロープに伸ばす手が止まった。このペンネームは僕がラジオに投稿する時に使っていた。そして信じられない事に、電話の声も僕だった。
「真一、食器洗ってくれる?」
美央は真央のオムツを替えていた。
「いいよ。」
僕はラジオをつけた。洗い物をしているとCMが流れた。手が止まった。そして急いで携帯に手を伸ばした。
1週間後。『5年後ラジオ』に送ったメールが読まれ、電話に出る事になった。
「どうも。恥ずかしがり屋のバンビです。先日、僕は父親になりました。」
「まぁ!!お幸せですね!」
「そうですね。以前リストラされて自暴自棄になった時もありましたが、あの時辛かった分、妻と娘が愛おしくて。」
「頑張られたんですね。」
「えぇ。振り返ってみると思うんです。人生には辛い時も必要だって。それに目標も。僕の5年後の目標は立派な育メンになることです。」
拍手が聴こえた。
「あの〜、娘が生まれて今日で1ヶ月になるので、名前を呼んでお祝いって出来ますか?娘の名前は僕と妻の名前から一字ずつ取って『まお』です。」
「勿論良いですよ。まおちゃん、1ヶ月のバースデー、おめでとう!」
人生には辛い時も必要。涙が溢れ、僕は迷った。そしてロープを捨てた。僕は独身だから、結局あのリスナーは他人だった。でも彼は同じ境遇で立ち直り幸せになった。僕は勇気を貰った気がした。
翌日から仕事を探し始めた。1年後に内定を貰った。『5年後ラジオ』にメールを送ろうとしたら、そんな番組は今まで一度も放送されていなかった。
月日は経ち、結婚し子供を授かった。
「赤ちゃんの名前、真一と美央から一字ずつ取って、真央はどう?」
幸せそうな妻から言われて思い出した。やっぱりあれは僕だった。
恥ずかしがり屋のバンビは、未来の僕だった。
読んでいただき、ありがとうございます。