俺TUEEEEすぎるうちの大賢者を追放したい!〜お前は(強すぎて)このパーティーに相応しくないから出て行けと言っているのに、なかなかうちの大賢者が追放されてくれないんですが〜
「カイン、このパーティーから出て行ってくれ」
Cランク冒険者パーティー『疾風の牙』のリーダーである俺がそう告げた瞬間、それまでの賑やかな食事の雰囲気が壊れて冷たい空気が走る。
「は? 何言ってるの、クロノ……じょ、冗談にしてもタチが悪いよ……?」
「冗談じゃないさ。エリスとルーナにはもう話をつけてある」
追放されそうになっているカインは、助けを求めるようにメンバーであるエリスとルーナの方を見るが、2人はそれから目を逸らす。残念ながら、もう決まったことなのだ。
「嘘、だよね? なあ、嘘だって言ってくれよ! 僕たち、ここまで一緒に頑張ってきたじゃないか!」
「……ああ、分かってる。確かにお前には感謝してるよ」
俺たち幼馴染4人組で冒険者になってから、これまで仲良くやってきた。このまま行けばBランクパーティーにもなれるだろう。だが……いや、だからこそ、カインをうちのパーティーに置いておくわけにはいかない。
「じゃあ、どうして! 僕の力量不足ならもっと頑張るし、報酬の配分だって……」
「まだ分からねえのかよ、カイン!!」
「クロ、ノ……?」
その理由に気づかないカインに苛立ち、思わず声を荒らげてしまう。もういい、そこまで無自覚なら言ってやる。言ってやるさ……
「お前はこのパーティーに相応しくないってことだよ! 強すぎるんだ、お前は!!」
「……は?」
……他でもないお前が、俺たちのパーティーにとってどれだけ分不相応であるかを。
「まず職業! 俺は剣士、エリスは付与士、ルーナは盗賊……なのにお前だけ大賢者! なんで1人だけ最上位職なんだよ!」
「それはそうだけど、職業が全てじゃないだろ!」
「お前が言うと皮肉にしか聞こえねえな!!」
もっとお前は調子に乗っていいんだよ! 大賢者って剣聖とか聖女とかと並ぶ最強のジョブだぞ! Cランクの冒険者パーティーなんて地位で満足するなよ!
「次はユニークスキル! お前が持ってるのは『無限魔力』『魔法永続化』『世界書庫』『魂喰進化』『時空魔法』『禁忌魔法』……ユニークスキルなんて持ってるやつの方が稀なんだぞ!?」
「でも、活かしきれてないし……」
「お前なら使わなくても勝てるからな!」
ユニークスキルは1つ1つが最強クラス、しかもこいつはそれを今上げた分以外にも合わせて62個所持している。それら全てを活かせてないのはお前のせいじゃない、相手が弱すぎるせいだ。
「最後に活躍! 薬草採取で超神界草を採ってくるし、ゴブリン退治でゴブリンロードを瞬殺するし、迷宮攻略は壁をぶち抜いて進むし!」
「自分に出来ることをやっただけだから……」
「やろうと思っても大抵の人間は出来ないんだよ!」
超神界草なんて国宝級に珍しい薬草だし、ゴブリンロードはAランク冒険者が数人がかりでようやく倒せるレベルの強さだ。もはやここまでやってどうして自分の強さに気づかないんだろう、この最強は。
「とにかくお前は強すぎるんだって! 分かるだろ、いい加減自分で気づいてくれよ!」
「……ハハッ、クロノは優しいんだね。そうやって僕を傷つけないようにしてるんだろ?」
「今すぐその顔面ぶん殴ってやろうか!?」
もうこいつ大賢者じゃねえよ! 自分の実力をきちんと計測できない愚か者だよ! 謙遜が行きすぎてもはや嫌味になってるんだわ!
「僕だって分かってる。君たちのサポートがあるから僕はようやく戦えるんだ、って……」
「ごめん、話聞いてた?」
こいつは俺の言っていたことを聞いていたのだろうか。ここまで強い人間の実力と比べれば、俺たちのサポートなんていらないのは明白なのに。
「ルーナの索敵のおかげで不意打ちも怖くないし」
「お前の魔法なら腕1本からでも肉体再生するけどな」
「エリスのバフとデバフは強力だし」
「どちらにしろオーバーキルだけどな」
「何より、クロノがちゃんと前衛をしてくれるし」
「戦う前にお前が敵を焼き尽くしてるけどな」
はい完全論破。お前は天才なんだ、いい加減気づけよバカ。やっぱりこいつはこんな普通のパーティーにいるべきじゃないことが話せば話すほど明らかになっていく。
「もう分かっただろ、カイン。お前はこんなところにあるべきじゃない……分かってくれるな?」
「嫌だ! 僕は君たちと一緒に……!」
「いらないんだよ! ……さっさと出て行ってくれ」
「……っ、そんな……くそっ!」
しかしここまで言ってもカインは納得していないようで、ただ悔しさと怒りを混ぜたような表情を浮かべた後に宿屋の外へと飛び出して行ってしまった。
「……もうちょっとゆっくり話してもよかったんじゃないですか、クロノ」
「そうかもな、エリス……少し言いすぎた」
「カインはこうなると無理しちゃうからにゃあ……後を追った方がいいんじゃないにゃ?」
「分かってるよ、ルーナ」
どうせまだ自分の強さを自覚していないのだろうから、特訓とでも称して危険なところに行くはずだ。もしカインなら無事で帰ってくるだろうが、万が一ということもある。
「ルーナ、カインがどこに行ったか分かるか?」
「『空間転移』を使ってるにゃね……見つけた、200キロメートル先、『深淵の牢獄』第12階層まで飛んでるみたいにゃ」
「うーわ、Sランクの迷宮じゃん……」
いつものようにルーナの『索敵(サーチ』でカインの居場所が判明したので、急いでそこに向かうことにする。Sランクダンジョンなんて1人で挑むところじゃないぞ。
「クロノ、少し待ってくださいね……『絶対防御』『絶対攻撃』『超光速化』『超絶反応』『無限回復』『絶対命中』……はい、付与が終わりました」
「ありがとう、これで俺もある程度は戦えるよ」
まあしかし、エリスのバフが有ればカインについていくのは可能だ。持続時間は10時間あるし、効果が切れる心配もないだろう。
「クロノ、1人じゃ危なくないにゃ?」
「私も心配です。カインの魔法に巻き込まれたら私の付与術でも……」
「ああ、大丈夫大丈夫。『神滅の終炎』くらいなら火傷で済むから」
さて、準備も整ったことだし……俺たち程度の実力で助けになるかは分からないが、あの無自覚最強バカを追うとしよう。
(……本当に、なんでアイツは自分の実力に気づかないんだろうな?)
そんな疑問を抱きながら、俺は1分で『深淵の牢獄』に到着するために急いで空を走り始めたのだった。