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【砂利道を歩く野良犬たち】      作者: トントン03
第七章 いよいよオープン! フカヒレで差別化
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―ゴキブリが混入した原因―

ここからですけど。

第七十話



 ―ゴキブリが混入した原因―


 子キブリ入り餃子のクレームを受けた日から四日が過ぎた。あの男たちはまだやって来ない。


 昼間のお客さんと夜のお客さんの客層は違った。昼間は、道路を隔てた中層マンションの住民や、店から駅へ向かう通り沿いの零細企業の従業員たちだ。その他、駅の北口周辺からもサラリーマンたちが食べに来てくれた。晴れていれば、開店前から店先に並べてある六脚の椅子にお客さんが座って待っていた。近隣の住民にはいつも混んでいる店というイメージが早くも根付き始めているようだ。その光景は、住宅地という立地にポツンとある角地の四川料理の店を一層際立たせていた。

 午後六時以降の客層は、家族連れが主だった。 


 善幸は、ランチメニューを十一月に入ってから二品から三品に増やした。その分、身体はきつくなるけれど常連客にとってはメニューが多いほど選ぶ楽しみも増える。更に変化をつけた。三品の内、一番人気のない品を毎週替えることにしたのだ。お客さんの味覚をマンネリ化させないよう、また(今週のメニューは何だろう?)と客の興味を惹き付けるためでもあった。だが、この案は范料理長の教えだった。


 ところで“この悪い評判”は、夜の時間帯の客入りに大きな影響を及ぼしはじめた。あの男たちのクレームの二、三日後から、極端に来客数が減ってきたのだ。『ゴキブリ入り餃子を喰わせる店』と、町内アナウンスでもされているかのように思えた。


 夕方からの時間帯は、ランチに比べて利益率は倍以上高かった。そこを見事にこの二、三日の間でスコーンと抜かれてしまったのだ。身体を酷使さえすれば、多少の余裕を持ちながら経営していける状態だっただけに、善幸は精神的にも大きな打撃を受けた。もしかしたら、それ以上に美乃里の方が衝撃は大きかったかもしれない。

 夜の時間帯は時間を持て余すことが増えていった――。


 善幸は、弱火にしてある茹で麺器からの湯気が換気フードへ吸い上げられて行くのをぼんやりと眺めていた……。  


 気掛かりで仕方がない男たちが店にやって来たのは次の週の月曜日だった。それも夜ではなく昼の時間帯だった。“もう来ないかもしれない”と言う甘い期待を抱いていた時でもあった。それに、先週のランチタイムの客の入りは、減ってはいるものの気にするほどのものではなかったのだ。

 

 善幸は挽肉を炒めている。ニンニク、生姜、豆板醤を放り込むと、スープを入れた。それは、常連さんの二人分の麻婆丼を作っている最中だった。


 美乃里が、蒼い顔をして近寄って来た。

「来たよぉ……ねえー、どうする?」

 その不安げな声は、身体が震えているように思えた。

 まだ正午前。それでも客席は三分の一ほど埋まっていた。通常、客席は窓際から埋まり、そのあと隅の席が埋まっていくが、どっちも空いているにも拘らず、男たちは、前回来た時と同じど真ん中の四人席をぶんどった。


 胡が中国語で対応し、注文を受けているのが聞こえてきた。

「ゴキブリガハイッテナイ、ギョウザヲゴニンマエ、ソレカラ、ホイコーロウ、バンバンジーネ」

 服装と不釣り合いなテノール調の声が、他のお客さんを振り向かせた。勿論、話している内容には吃驚だ。追い打ちをかけるように、もう一人の男が、

「アア、ソレト、ビールネ。ビールハ、ゴキブリダイジョウブアルカ?」

 男たちは、胡に対し態々日本語で注文している。その意図するところは間違いなく金銭目当てだ。だとすれば、早く交渉してこれ以上悪い噂が立たないようにしなければならない。(客席で話をするわけにもいかないし、どうしたらいいものか……)


 そこで、善幸が思い付いたこととは――お客さんには分からないように、胡に中国語で「店主が先日の餃子の件で話がしたいと言っているので、申し訳ないがもう一度夕方五時頃に来てもらえないだろうか?」そう彼らに伝えてもらうことだった。


 ゴキブリと聞いて、既に店から出て行ってしまった客もいた。また、この成り行きを最後まで見届けてから出て行こうと考えている客もいただろう。こうしている間に、入って来る客もいた。対応の仕方に美乃里も野々村も躊躇している。ただ、胡だけが平然と接客をしていた。


 善幸は、美乃里にこれ以上客が入って来ないように【臨時休業】の札を入口に掛けるよう指示した。昼間のお客さんも激減したら年を越すことができなくなる。今まさに自転車操業の怖さを思い知らされているのだ。家族三人が掴もうとしている夢が、瞬く間に打ち砕かれていことしていた。


 長々と中国語でやり取りしていた胡が話を終え、厨房へ戻ってきた。最終的に、善幸の意向を聞きいれ、男たちは夕方にもう一度来るからその時に話を付けよう、ということになったらしい。

 何も食べずに男たちが帰った後、残っている客は後を追うように店から出ていった。


 日々の売上げの一部を、現金払いの業者の支払いへ回しているものもあった。その支払いが出来なくなると、一度ならまだしも二度三度は待ってはくれない。業者との取引に支障をきたさないこと、その信用が店の存続の絶対条件の一つでもあるのだ。

 男たちの目的ははっきりしていた。間違いなく金。その切っ掛けを作ってしまったのは店側にあり、自業自得だと客に言われればその通りかもしれない。かと言って、相手の要求を丸呑みにする店主などいやしないだろう。

 善幸は、この難局打開の妙案を捻り出さなければならなかった。彼らが要求してくる金額と、こっちが妥協できる金額との折り合いを早急に付けなければならない。だが、そんな妙案なんてあるのだろうか……。その前に、確認しておかなければならないことがあった。それは、一体いくら要求してくるかということだ。


 男たちが夕方にやって来る以上、話し合いがいつ終わるのか、その予測は立てられない。善幸は、今日の夜の営業も断念することにした。

 店を閉めさせた後、善幸は、胡だけを残してあとは全員帰らせた。男たちとの受け答えの様子から、日常会話は日本語で話せそうだが、金銭が絡む話となると、そこに食い違いが生じ、後々揉め事になることも考えられる。そのようなことが起こらないように、胡に通訳してもらい、しっかり確約を取っておく必要があった。

 互いの約束事を簡単な書面にし、相手方二人の署名と、住所は身分証明と照らし合わせ作っておきたい。このように、仕事上の互いの決め事に注意深くなったのは、山下との契約や交渉の中で、曖昧な内容を、自分の都合で勝手に解釈してしまったという苦い経験から学んだことだった。


 陽が暮れようとしていた。店内の照明は半分消している。善幸は胡と窓際の席に座り、彼らを待った。



 道路を隔て、信号機が青になるのを待っている二人の男。「アレジャナイノカ?」と胡が指を差した。

 その男たちが、店の中へ入ってきた。

「ハナシニキタヨー」一人の男が言った。

 男たちは、腹が空いているから何か食わせろと要求してきた。ビールでも飲みながらゆっくり話し合おうじゃないか、と言わんばかりの態度だ。

 善幸は、胡に手間の掛からない餃子とピータンとザーサイの炒め物でも出すように指示した。

 男二人は、互いにビールを継ぎ合うと一気飲みした。また継ぎ合い、半分ほど飲んでグラスを置いた。

 二人は、胡が先に持って来た一品をみると、割り箸をパチッ、ポリポリ、クチャクチャと音を立てながらザーサイと胡瓜の炒め物を喰いはじめた。鏡に向き合って食べているかのように二人の動作は一致していた。



 彼らの要求は至ってシンプルだった。しかし、その額が半端ない金額だったのには愕かされた。


「コノミセ、ヒトガイッパイキテルネ。モウカッテルヨ。デモ、ゴキブリガハイッテルギョウザハ、イケナイヨ。オキャクサンコナクナルネ」

「で、どうしたいと?」

 まどろっこしい会話など不要。善幸は早く決着を付けたかった。

「五ヒャクマンエンデイイヨ。ソレデ、ナカッタコトニスルヨ。オレタチハ、モウコナイ。アンタ、ソノジョウケンデイイアルカ?」


 冗談じゃない! と思い、二人を追い出そうとした時、胡が男たちと話し出した。この二人は交互に胡と話している。どっちが兄貴分なのかは判然としなかった。

 話し終わると、一言こういって店を出ていった。

「マタ、ミセニクルヨ。インショクダイハ、ゼンブ五ヒャクマンエンカラ、ヒイテオイテクレレバイイアルヨ」


 美乃里と由紀子さんを先に帰らせておいてよかったと善幸は思った。

 五百万円を払わなければ『ゴキブリ入り餃子の店』のレッテルを張ってやるぞっ、と考えているのだろう。そんな金額を本当に払わせようと思っているのか? それとも、この金額から下げていき、折り合いの付く金額を探っていこうとしているのだろうか。それを見極める必要があった。

 明日は火曜日、定休日だった。



 善幸は、昨日の男たちとのやり取りに関しては、「そのうち諦めて、来なくなるだろうよ」と美乃里に言った切り、他に何を訊かれても答えなかった。

 その夜、善幸は布団の中で一人思い悩んだ。


 ――男たちはこれからどのくらいの頻度で店に来ようとしているのか。このままだとお客さんは来なくなってしまう。一週間も経てば、閑古鳥が住み着いてしまうのではないか。困難を乗り越えてきたこれまでの頑張りが無駄になってしまう。こんなにも脆く崩れてしまうものなのか……。身体を酷使し、経験を積み、腕を磨いてきたつもりだっただけに怒りと悔しさが込み上げてきた。


 休み明けの水曜日。果たして、男たちは来るのだろうか。来るとすれば、昼なのか、夜なのか――。

 男の二人連れが店に入って来た。反射的に「奴らかっ?」と凝視してしまうのは善幸だけではなかった。例外は一人、マイペースな胡だけだった。肝が据わっているというか、そのボディからしても、半紙を押さえる文鎮のように思えた。


 だが、閉店時間になっても男たちは現れなかった。

 家に帰り、美乃里と話したことといえば、執念深そうな男たちのことだった。

「明日は来るよ、きっと。でも、昼には来てほしくない。昼のお客さんが激減してしまうから……」美乃里は、湯呑を握り締めている。

 この一週間の夜の来客数は、三、四組程度に激減していた。

 次の日も男たちはやって来なかった。何処かで覗き見していて客が極端に減ってしまったことを知ったのではないだろうか。お客さんが入っていない時に現れても意味はないのだ。だとすれば、次のターゲットは昼間の時間帯。ここをやっつけてしまえば、この店は間違いなく潰れる。しかし目的は店を潰すことではないはずだ。


「あのさ、おまえから由紀子さんに伝えておいてもらえないかな、暫く休んだ方がいいんじゃないかって。身体の調子が悪いと思うんだ。このところ店の手伝いで、病院へは行けないでいるんじゃないか? 夜はおまえと胡さんがいれば十分。ただな、お客さんが減ったので、もう来なくていいから、そんなふうに誤解されると困るんだけど」

「そうは思わないと思う。お母さんは、あくまでも店が上手くやっていけることを願っているだけなの。先日ね、新潟の〝ダブル麻子〟からまたお母さんのところへ電話があって、『お店繁盛してる?』って訊いて来たんだって。新潟のおばあちゃんは、あなたの顔を見たことがないじゃない、だから、あなたが()()で働いている時の写真をね、二人が欲しいって言うから、店をオープンする前に送ってあげたのよ。おばあちゃん……あなたの写真をまるで遺影写真のように扱ってるって、麻子が言ってた。手を合わせて『どうか、お客さんが入りますように……』って。血の繋がりがないどころか、会ったこともないのにね」

「死んじゃってるんだ、俺……。だったら、麻子おばあちゃんと麻子に、元気な姿を見せに行かなきゃなぁ」 

「来年、一息付けるようになったら、お父さんとお母さんも一緒に皆で行きたいね……。と言うより、行かなきゃ……」

「そうだな、行かなきゃいけないな……」

 二人は気力の乏しい会話をしていた。

 それより、奴らとの金銭のけりはまだ付けられていない。落としどころを探っておかなくてはならなかった。

「ねえ、たかが中年の男二人だけの問題じゃない、その二人が、あたしたちの店をいとも簡単に潰そうとしているんだよ!」

「五百万円払えば、かたが付く話だけどな」

「何言ってんのよっ!」

「冗談だよ、冗談……」


 美乃里はふくれてしまった。真剣な話をしている最中、時に善幸が投げ遣りな態度をちらつかせるのが不愉快で堪らないようだ。

 善幸としては、そんなことに構ってはいられなかった。


 先に美乃里が自分の考えを示した。「あの男たちがゴキブリを入れた犯人でないことは明白。それで、店側がこの問題を金銭で処理したことが、もしあの場に居合わせたお客さんに知られてしまったら、同じ金額を払わなければならなくなるの?」

 美乃里がそう問い質してきた。

「まあ、他のお客さんにバレたら、バレたとしたら金を要求してくる客が現れる可能性はあるかもしれない。五百万なら尚更だろうな。それは想定しておいた方がいいかもな。ということはだ、金はたとえ十万円でも払っちゃダメだってことになるけど、しかしなぁ……」

「男たちに払わないで解決する方法なんてある?」

 知恵を絞ったとしてもそれはないだろうと思った。

「奴らが諦めるまで辛抱強く対峙する、それくらいか?」と、諦めの境地で言ってみた。

「困り果てた時って、いつも他人事みたいなことを言うのよね、あなたって……」

「そういう訳じゃない」

「じゃ、どういう訳よ!」

「性格的なもんじゃないか。おまえさ、言い方なんて気にすんな! 一々面倒くせー奴だなっ」

 美乃里は深呼吸をした。


 宥めようと、善幸はある考えを示した。

「俺ね、警察へ相談しに行こうかと考えてるんだ。といっても、彼らは悪いことをしたわけではない。ただ、五百万円という法外な慰謝料の要求をしているだけだろ? もしかしたらだけど、強請りってことで恐喝罪扱いにしてくれないだろうかと、その僅かな可能性を考えてみたんだけどな」

「え、恐喝罪? 大事になっちゃうね」

「暴れてガラスを壊したとか人に傷害を与えたのであれば事件として扱ってくれるだろうけど、ゴキブリ入り餃子を喰わされて、慰謝料として五百万円を要求、これって恐喝事件になるのかなあ。これを聞いたお巡りさんも、相手に同情したりしてな。事件として扱うのには無理があり過ぎか?」


 時計は九時を回っていた。さよりはまだ帰って来こない。


「あたしね、言うべきかどうか迷ってたことがあるの」

「何だ?」

 善幸は、この期に及んで、美乃里は何を言い躊躇っているのかと理解に苦しんだ。

 話を聞いてみると、数日前、仕事で使う皆のエプロンを洗濯して、乾いた物からアイロン掛けをしていた時のことらしい。エプロンのポケットに黒いゴミが入っていたから取り除こうとしたら、それがなんとゴキブリだったというのだ。ちょうど餃子に混入していた黒ゴマ大のゴキブリと一緒だったと……。どうしてポケットに入っていたのか? エプロンには、誰の物か分かるように、紐に小さくマジックで名前が書いてあって、そこには〝胡〟と記されてあったという。更に、善幸が問い質して訊いてみると、エプロンの製造過程でポケットを縫い付ける際、内側に折り込んである縫い代の糸屑に絡みついていたので、もしかしたら、もっと前からゴキブリが入り込んでいた可能性も考えられるんじゃないか、と美乃里が話した。

「おまえ、なぜもっと早くそれを話さなかったんだ?」

「あなたが、勘違いしたら大変なことになると思って……」

「勘違いって? 俺が胡さんを疑うってことか?」

 美乃里は黙っていた。

 美乃里が「もしかしたら……」と僅かでも疑いを抱いていたから、却って言い出せなかったんじゃないのだろうか、と善幸は考えてみた。

 そこで、

「疑ったりなんかしないよ。考えてみな、パートの立場でだぞ、あそこまで頑張ってくれる人はどこ探してもいない。彼女が居なかったら、この店は二、三日でパンクしてしまうんだよ。それに、胡さんは山下さんが紹介してくれた人なんだ。胡さんを疑うということは山下さんを疑うということになってしまうんだぞ。それに、胡さんが故意にゴキブリを餃子に入れなければならない理由があるか? 考えても無いだろうよ。だからさ、あり得ないことなんだ。濡れ衣を着せるようなものさ」

 善幸は、美乃里の、もしかしたらという僅かな疑いを取っ払ってやろうとしたのだ。

「あたしも、そう思うけど……」

「洗ったエプロンって、いつもおまえがアイロン掛けて、小上がりの畳の上に置いているよな。ということはだ、卵の孵化は冷蔵庫の裏ではなく、畳の下ってことになるのか? でも確認したもんなあ……」

「そうね……」と言いながらも、美乃里は(だったら他のエプロンのポケットに入っててもよさそうなものなのに)そう言いたそうな面持ちだった。


 この件に関しては、美乃里なりに時間を置いて考え、このまま黙っている訳にもいかず話したのだろうが、善幸はこの件のことで、もう一つ腑に落ちないことが頭に浮かんできた。

 それは、男たちと揉めた翌日に、皆で厨房だけでなく店内全てを清掃した時のことだった。

 善幸は、厨房内の衛生面を考え、害虫を寄せ付けないよう当初の要望通り、サトシに無理を言って厨房の壁をステンレス張りにしていた。また、内装工事が終わり、厨房設備を設置する前に念入りに皆で掃除をしている。

 今回の清掃に関しては、ゴキブリが卵を産み付ける一番怪しい冷凍冷蔵庫の裏を重点的にやった。三人掛かりで三十センチほど前に引き出して裏側を懐中電灯で調べもしたのだ。

「おい、手鏡あったよな、持って来てくれ。見落としのないようによく見ておかないと……」しかし、きれいなもんで卵を産み付けた形跡など見当たらなかった。残るは、小上がりの畳。これを一旦全部上げてみたが、目に付く綿埃さえなかった。


 考えてみれば、あり得ないことだった。オープンして二箇月しか経っていないのに、それに毎日の掃除も万全だし、ゴキブリの餌になるような食べカスなどあるはずもないのだ。況してやこの時期にゴキブリが外から侵入し、店内の何処かに卵を産み付け孵化したというのか? 餃子に二十匹程度混入してたってことは、この厨房内には、少なくともその何十倍もの卵が孵化したということになるわけで、これだけ掃除して一匹も見つからないなんてことがあるのだろうか? そんなこと、とても信じることができなかった。


 善幸と美乃里は、混入した別な原因と、店の存続のためには吹っ切らなければならない微かな〝疑い〟に翻弄された。


 時計を見ると十時を過ぎていた。さよりが塾から帰って来たようだ。


 善幸は、くぐもった声で「おまえ、さよりには一切この話はするなよ」そう美乃里に釘を刺したのだった。                 (つづく)


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