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【砂利道を歩く野良犬たち】      作者: トントン03
第五章 出来上がった厨房内の確執と家族の絆
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―兄弟子郷原の心意気と思い遣り―

お、評価されてました。ありがとうございます。なかなかここまで読んでいただける方はいないですよね。よかったあー もう無理か、とも思ってたところでした。ここから予想だにしない出来事が数多起こるのですが……裏切らないと思います、宜しくです。

第四十四話



 ―兄弟子郷原の心意気と思い遣り―


 善幸は風呂から上がると、缶ビールを冷蔵庫から取り出し飲みはじめた。

「トマトって、見た目じゃわからないのよねえ、見極め方ってあるのかしら?」と美乃里が訊いてきた。

 善幸はそれには触れず、

「俺さ、三年後に自分の店を持つことにしたんだよ。だから、金を貯めておいてくれよな……」冗談ぽく言ってみた。

 美乃里の返事を待った。

 六帖の和室と三帖の台所の空気を一人で掻き回している美乃里。ぶら下がっている電球の明かりが中々彼女の顔を照らしてくれない。待っても返事はなかった。それでも、含んだ笑みがちょっぴり窺えたような気がした。


 ふた間の内、さよりに明け渡した四畳半の部屋の襖は閉まっていた。ラジオでも聞きながら受験勉強をしているのだろうか、と善幸は耳を傾けている。起きてる気配は感じない。きっと寝てしまったのだろう。

 

 暫くして、襖の擦れる音。

「お父さん、お帰り」さよりは起きていたようだ。

「聞いてくれる? 十月の六日に運動会があるの。あたしね、リレーの選手に選ばれたんだよ。毎年、選ばれてるんだけどさ。かけっこは、小さい頃から得意なのは知ってるでしょ、でもお父さんはさ、あたしの走ってる姿って一度も見たことがないじゃない。それって、親としてどうなの?」不満そうだった。

「どうなの? って言われてもなあ。お父さんはサボって行かないわけじゃないし……」

「中学生最後の運動会なんだけど?」

 美乃里が口を挟んできた。。

「休みが合わないのよ、分かってるでしょ? 無理言わないの」

「ちょっと、お母さん、休みが合わないってさ、幼稚園の頃から今までに運動会は何回あったと思ってんの。足が遅けりゃ、見に来なくてもいいけど。学校でさ、あたし、何て渾名が付いてるか知ってる?」

「聞くのが怖いな、なんだ?」善幸は渾名に興味をそそられた。久しぶりに聞く学校生活のことだった。

「カモシカだよ。バンビの方が可愛らしくてよかったんだけどさ。石川県から転校してきた袴田君からはね、輪島塗りの箸って言われたこともある」

「ほーっ、地域密着型の褒め言葉だ。センスあるねえ~、有難いじゃないか。それで、袴田君にお礼は言ったのか? 褒められたら褒め返さないと失礼に当たるからな」

「言うわけないでしょ」

「目でも鼻でも髪型でもいいから考えておけよ。ただ、輪島塗りの箸だけじゃ見落としがあるな。以前、陸上部の担任の先生も言ってたよな、特に短距離は腕の振りも大事だって。箸を持つにも四本の指は必要だってことだ」

「はあーい、お二人さん、終わり終わり!」

 これは、結婚してからの美乃里の口癖になっていた。善幸と言い合いをするとき、美乃里が言い切った後に都合よく「はあーい、終わり終わり!」これを使ってくる。何も言えなくなった善幸は、ストレスをため込んだまま眠りにつかなければならない。だが、そのお蔭で言い合いが少なくなったような気もする。

「さよりと話すのは久々なのになあ……」残念そうにそう言った。

「あなたたちは話し出すといつも長いんだから。お父さんは疲れてるんじゃないの? 寝ないと。さよりも深夜じゃなくて和泉くんのように早朝に勉強したら? 成績の良い子は朝方だってよ」

「和泉が朝方だって? この前、オールナイトニッポンの話してたよ」

「お母さんは、成績が上がるのならどっちだっていいの。でもラジオ聞きながらじゃ勉強なんてできないでしょ?」

「聞きながらでも解ける問題ばかりだから大丈夫だよ」さよりが言い返した。

「頭良いんだなあ、さよりは。わからない問題があったらお父さんに遠慮なく訊いて来い」

「わかったよ、訊かないから。だってわからないでしょ? お父さん」

「勉強ってーのはな、一人でやるもんだ!」

「話が支離滅裂、もういいよ」

 さよりが自分の部屋へ戻っていった。 


「和泉くんと同じ高校へ行けたらいいんだけど……」美乃里が呟いた。

「初めての受験かあ、人生を左右させる節目だよな。父親としての役割を果たせるチャンスでもあるのかな。でも、何をしてあげたらいいのか、まったく思い浮かばないなあ」

「悩むことなんかないわよ。お父さんは何もしなくたっていいの」

「それじゃあ、恰好がつかないんじゃないか? 運動会にも行ったことがないんだぞ」

「お父さんだって、人生を左右させる節目がこれから来るかもしれないじゃない。かもじゃないか、その時は、あたし、女房としての役割を果たさなきゃね。あたししか居ないんだから」

「他にいたら問題だろ。でも、さよりも力になれるかもしれないぞ。なんか、わくわくしてきたな」 

 二人は何について話しているのだろう……。善幸は、美乃里の顔をみながら首をひねってしまった。

「昨日、麻子から電話が掛かって来たの」美乃里は話を変えた。

「おお、麻子は元気でやってるのか? 金沢もこれから寒くなるだろう。心残りなのは、入学祝いをしてあげられなかったこと。盛大にしてあげたかったなあ……」

「入学祝いは、お父さんとお母さんとさよりもいたのよ。賑やかだったわ。あなたは仕事だったんだから仕方がないじゃない。麻子ね、幼稚園の運動会やお遊戯会、それに卒園式、あたしたちも行ったのを憶えていたのよ」

「今でこそ、おじちゃんって呼ばれてるけど、あの頃は誕生日プレゼントをあげた時から〝善くんパパ〟って呼ぶようになったんだよな」

「麻子って、不思議な可愛らしさがあるのよね」

「そうなんだよな、幼い頃からミステリアスなところがあると思わないか?」

「わかるけど、ちょっと極端すぎない?」

「俺ね、麻子が高校生だったときに訊いたことがあるんだ、『麻子の悩みって何だ?』ってね」

「で、なんて言ってた?」

 身を乗り出すくらい美乃里が興味を示した。

「麻子はね、『悩みねぇ……』って考え込んだ後に『悩むほどの悩みなんて一度もなかった』って。なぜそんなこと突然訊くのかって逆に言われたの」

「そう……」

 多分、美乃里も思ったはずだ。(本当のお父さんの記憶はあるのか、どんな人なのか知りたくはないか? 血の繋がったお父さんに会ってみたいとは思わないか?)と。

 果たして、義父と由紀子さんは、そのことを訊いてみたことがあるのだろうか……。

「麻子はね、今のお父さんを本当のお父さんだと思っているのよ。だから、金沢に行ったの」

「だから、金沢に行ったって? その辺のところはよくわからないけど。俺、麻子が金沢大学を受けるって言ったとき、えっ、なんで? って思ったよ。親元離れて地方の大学にわざわざ行くなんてさ。お父さんの故郷だからなの?」

「その訳を訊いてみたことがあるけど。麻子ね、金沢に住んでみたいんだって」

「それだけか? 麻子は通訳の仕事に就きたいって言ってただろ、だったら東京外語大が良かったんじゃないのか? あのくらい偏差値があれば受かっただろうに」 

「お母さんもそう思ったって。誰も金沢大学を受けるなんて聞いてなかったんだから。直前になって言うものだから吃驚よね。担任の先生も愕いたらしいの。最初からそのつもりだったのよ、きっと……。麻子らしさが出ちゃった?」

「本人が本当にそれでよければいいけど。どうなんだろう……。麻子って、何を考えているのか分からないときがあるからさぁ」

「そこが、いい意味での麻子らしさ。心配しなくても大丈夫。これでよかっんだよ。おばあちゃんと二人で暮らしながら愉しく大学生活を送ってるって、電話で言ってたから。口には出さないけど、お父さん、金沢に居るおばあちゃんと一緒に暮らしてくれることを、とても感謝してると思う」

 開けっ広げで隠し事のない家族とは、何でも話し合える家族のこと。ところが、麻子と義父と由紀子さんとの睦まやかな親子関係には、それさえも必要ではなかったようだ。

「麻子にとって、あなたは義理のお兄さん。うちの場合は〝義〟が付くのが多いのよね。でもいいじゃない、麻子はあなたのことも気に入ってくれてるんだから」

「ちょっと、ちょっと〝も〟が気になるなあ、格が一段落ちてねーか?」

 美乃里は、押し入れから布団を引っ張り出した。


 

 翌日、午後の休憩時間が終わり、再び中華包丁でのタップダンスが軽快にはじまった。

 崔が、めずらしく郷原に直接指示を出した。常日頃では、郷原と善幸に関しては放置状態にしている崔なのだが……。


「郷原、蛇口の付いたあの寸胴に鰹と昆布で出汁を取ってくれないか。新メニューを考えたいんだ。強めの出汁を作ってくれよ。それを鶏がらスープと合わせるから」


 崔が新メニューを考えるなんて、一体どうしたというのだ。毎度同じ夜のメニューじゃ拙いと思ったのだろうか。夜のメニューはここ三箇月間変更していなかった。  

 ところが、崔から指示を受けても、郷原は返事をしなかった。厨房内に嫌な雰囲気が漂った。周りは知らぬ振り……。


 その様子を見ていた善幸は、果たして郷原は指示通りに動くのだろうかと気掛かりで仕方がなかった。

 間もなくして、郷原は今やっている作業を止めて、その寸胴を洗いはじめた。

 善幸が郷原に近寄り囁いた。

「郷原さん、随分と露骨な態度を取りましたね」

「あいつに返事なんていらねーんだよ。ただ、言われたことはやらないとな、い、ち、おう……」

 郷原の胸中は、この店に居る限り、崔に指示されたことはやらなければいけないと思っているようだ。どうやら、この店に、踏ん切りをつけたのかもしれない。そうなると、自分としては身の振り方を早急に考えなくてはならない。すぐに郷原が辞めてしまう訳ではないにしても、ケツを捲るような惨めな辞め方はしたくなかった。

 この時、自分の店を持ちたいという漠然とした夢ではなく、叶えてやるぞ! という決意が固まったのだった。


 先日の電話でも、料理長に話してしまった独立のための三箇年計画。まだ中身がスカスカだが、それを実現するために行動を起こさなければならない。言うまでも無いことだが、先ず資金が必要。料理長が香港で今まさにぶち当たってる壁だった。

 

 結局のところ、資金を作るためには、この店で倦まず弛まず働き続けていくしかない。善幸は、他の店へ移ることは考えていなかった。この店を辞めた次の居場所は、独立してオープンさせる自分の店しかないと考えていたからだ。その間に見ず知らずの〝他人〟を挟むわけにはいかなかった。


 一歩厨房内に入れば、そこは隔離された中国本土。日本語は通じない世界になっていた。二人にとって、日本語の一方通行は不便てなもんじゃなかった。休憩中は、郷原と善幸が肩を寄せ合いヒソヒソ話をしている有り様。まるで捕虜のようだ。

「聞こえたら拙いからさぁ、帰りに話そう……」郷原は俯いて言った。



 仕事を終え店から出た二人は、緩い坂を上り駅に向かって歩いている――。覚束ない片目のライトが通り過ぎた。最終電車まで一時間を切っていた。

 善幸は、誰にも気兼ねすることなく話せる場所を探している――。二人は、四ツ谷駅の高架橋の真ん中で足を止めた。

 郷原は手摺りに肘を掛け、線路を見下ろした。

「仕事場じゃ、下手なこと話せないからさ……」

「参りましたね。どうします? 郷原さん」

「どうもこうもないよ。こんな店に居られないだろっ」

「やっぱり、佐世保へ帰っちゃうんですか?」

「帰るのはいつでもできる。このまま逃げるような辞め方はしたくない。これだけ扱き使われて来たんだぞ、その上、ボーナスまでドスンッと減らしやがった」

「俺もですよ。三年前から同じ割合でボーナスが減らされているんです。うちの奥さんはデキた奴だから、なんにも言いませんけど」善幸が苦笑した。

「多分、減らされているのは俺たちだけだ。一番仕事してて、一番売上げている俺らのボーナスを減額するなんてよ、ふざけてるよな。査定は崔がやってる。あいつによ、好きなようにやられてるんだよ。どうせ辞めるんだったらさ、崔を思いっきりぶん殴って辞めるか! それで気が済まなかったらどうしようかなあ……。あっれ、厨房には凶器がいっぱいあったな」

「落ち着いてくださいよ、郷原さんっ」

 本来は冷静沈着な郷原だった。

「倉持、崔の手口って分かるか?」

 郷原が線路へ唾を吐いた。狙ったかのように右側の線路の上へ落ちた。その瞬間、ピシャッという無音が善幸の耳に聞こえてきた。

「手口? 何のことですか」

「おまえ、崔ってどういう人間か分からないようだから一つ教えてやるよ。あいつな、赤字ぎりぎりのところを狙ってるんだよ」

「どういう意味です?」

「繁盛すると、身体がキツくなるわな。だから、范料理長が居た頃のように黒字を出そうとはしない。赤字になるかならないか、ギリギリのところの売上げを狙っているんだ。毎年赤字じゃオーナー達に責められるだろ、崔はな、自分の得にならないことはしない。というか、労力、金、それに人使い、自分が得するようにこれらを操っているのさ。それも誰にも気づかれないようにな。この手口、見ててお見事だと思わないか? 俺は知らぬふりをしてるけどよ。雇われ店長に、この手のタイプは少なくない。自分の店じゃないって、どこかで思っちゃうんだろうな。前の店でも居たんだ。でもさ、それって、時間の問題で、長く居れば誰かに見抜かれてしまうことを、本人自身が気づかないんだよな」

 善幸は、郷原の料理人歴は何年だったっけ……と考えてしまった。

「なんだか、あいつ、恐ろしい奴に思えてきましたよ」

「そういう奴って、共通のニオイがするんだ。前の店で、俺はそれを嗅ぎ分けられるようになったのかもしれない。その経験がこの店でも生かされたってわけか? まあ、崔の場合、それを見抜くのに四、五年は掛かったけどさ。崔は、何でも巧みで忍び足。だから思惑の気配さえ感じさせない。そこが悪質なんだよなあ」

「そうだったんですかぁ……。俺じゃ何年一緒に働いていようと、そこまでは気づかないと思います」  

 善幸は、それを見抜いた郷原こそ〝天晴れだ!〟と思った。

「近々、ジャブから喰らわしていこうと思ってる」

郷原は、ニャッとした顔を善幸に向けた。

「このままボーナスを減らされ続けるなら、俺だって!」と言ったものの、善幸にはやっつける方法が頭に浮かんでこなかった。

「おまえはどうするんだ? このまま続けるのか? まさかな」

「辞めますよ。こんな店に居たって何の意味もないし。俺、自分の店を持とうと思ってるんです」

「おいおい倉持、簡単に言うけど、金はあるのか?」

「だから、すぐには辞められないんですよ。店を移ったら、今の給料より下がっちゃいますよね。三年後を目途に考えてます。金を貯めないと身動きが取れない。俺、それまではこの店で我慢します」

「我慢……」

 郷原は唖然となり「この店で三年間か?」と訊いてきた。

「俺には他に選択肢がないんです。よく商店街で、潰れずに何年もやってる店ってありますけど、考えてみれば凄いことなんですよね。俺も欲張らずに夫婦でそういう店をやれたらいいなあって思ったんです。この前、うちの奴に、『金、貯めておいてくれ』って冗談ぽく言っておきました」


 范料理長は、仕事がやり易いようにとの想いから〝崔ライン〟の対応策を色々と考えて辞めていったのだ。それをおざなりには出来ない。この店を辞め、他の店に移るわけにはいかない本当の理由はそこにあった。

 この店を辞めるとすれば、許される唯一の言い訳は一つしかなかった。それは、独立し自分の店を持つということ。しかし、郷原にこの件に関しては言えなかった。料理長との絆の違いからの遠慮がそうさせていたのだ。

「そうかぁ、おまえ、奥さんに苦労かけることになるなあ……」

「俺と一緒になったんだから、その辺の覚悟は出来てるんじゃないですかね」

「俺も、そういう奥さんが欲しいよ。独身で店を持つってさ、人を雇わないといけないから運転資金もそれなりに考えないといけなくなる。その点、奥さんが居たら凄く有利だよな。料理人の人生の中で、一番のリスクは独立だ。資金力のない料理人の独立は、生涯を掛けた一度きりの勝負事と考えた方がいい。男なら、その勝負、やってみたいと思うよな……」


 善幸は、猪之良が辞めていく間際に打ち明けてくれた話を思い出した。高級魚との一対一の対決! 漁師という職種は、日々が命がけの勝負事なんだ! と語ったこと。その時、胸が熱くなった。考えれば、貧乏からの料理人の独立も一発勝負の命がけ。一緒ではないかと思ってしまったのだ。


「料理長だって二十代の頃、言葉も分からないのに一人で香港へ行って大分苦労したそうです。それに比べれば、こんな我慢なんてどうってことありませんよ!」

「倉持、開店資金っていくら必要か、分かってるのか?」

「これから調べます」

「そんな段階なんだあ……。忠告しておくけど、店を持つって簡単じゃない。慌ててやると、冗談抜きに命を奪われかねないぞ。一度、お客さんが離れていくと、戻って来るまでどのくらいの奉仕と努力が必要か、それは人が信用を失ってそれを取り戻すより何倍も難しいことなんだよ。俺は、親父を見ててそれを知ったんだ。お客さんってね、気になることを一つでも見つけると、もうその店に足を運ばなくなるもんなんだ」

 客が入って来るのを待つ商売、来なければ待ち続けるしかない。親方の下で働いていた頃、親方が偶に吐いていた溜息……。その心情を、今になって感じ取ることができた。

「ある程度はわかってるつもりです」


 善幸は、四ツ谷駅を出発した電車のパンタグラフを目で追った。

「はっきり言うけど、俺、三年は付き合えないぞ。一緒に辞めれたらいいと思ってたけどさぁ……」

「わかってますよ、郷原さん。俺のことは気に留めないでください」と言いながらも、善幸は声を曇らせてしまった。

「で、いつ辞める予定ですか?」

 善幸は訊いておく必要があった。

「……二年は居るよ。だめか?」

 本当はすぐにでも辞めたいのではないだろうか。

「二年間居てくれたら、俺、助かりますっ」

「ごめんな、それが俺の限界だと思う……」

 善幸は、郷原の居ない一年間の未知の我慢に挑戦していかなくてはならなくなった。


「おい、もう行こうぜ。店で泊るのはごめんだ」


 郷原と善幸は、それぞれ方向の違う電車へ乗り込んだ。           (つづく)


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