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【砂利道を歩く野良犬たち】      作者: トントン03
第一章 さよりと肇先生
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ーさよりと肇先生ー

第二話


―さよりと肇先生―


 それは、彼らが高校二年の夏休み直前に、保護者を交えて行う面談の時だった。

 塾講師である肇は、最初にこの面談で受講者に檄を飛ばす。「いいか、この夏休みが勝負だ!」と。面談の最後には、気を引き締めるため、より具体性をもたせ受講生へ迫った。

「いいか、スタートが肝心だ、夏休みが始まってからの一週間が勝負なんだぞ、気を抜くなよっ、この夏休みを無駄にしちゃいかん!」

 肇は、同席している保護者を余所に、受講生を睨みつける。彼らは、微動だにせず睨み返してきた。 


 倉持さよりは、高一から肇の担当だった。その頃からさよりは順調に偏差値を上げてきた。彼女の面談の順番が回ってきた。

「高一からの模試の偏差値をみると順調に上がってきていますねえ。誰でも得意不得意の科目があるし、成績の浮き沈みもあるものです。でも、倉持さんにはその波がない。安心してみていられる。気を抜かずこのペースで進んでいって下さい。この前、提出してもらった夏休みの学習計画をやり遂げましょう」

 さよりは、春休みの面談と同様に両親と同伴で出席していた。大切な一人娘、料理人である父親の善幸は、稼ぎ時の土曜日だというのに仕事を休んで出席している。


 しかし、今回はいつもと状況が違うようだ。

「色々とご指導して頂きありがとうございます。ところで、先生、わたし、今度独立して四川料理の店をやろうと思ってるんです。といっても街中華というやつなんですが。今物件をあたっているところなんですよ」善幸は、娘の顔を見ずに話した。


 肇は、善幸が都心の中堅ホテルの四川料理店で料理人として働いていることは以前行なった面談の時に聞いていた。

「ええっ、ホントなの? お父さん、すごーい! あたし、心配しちゃったよ、だって、帰って来るのが不規則だったから」

 さよりは、このとき初めてそれを知ったようだ。母親の美乃里も、彼女には話していなかったみたいだ。

 塾講師という立場は、大学進学の相談を受けていると、否応なく家庭の事情が分かってしまうもので、また受講生の家庭環境の実態を把握しておくことは必要不可欠だった。

 肇が今回の面談と、彼女の普段の様子から分かったことは、父親が仕事を辞めたんじゃないかと心配していたということ。ところが、父親は店舗物件を当たっていて、それで出勤時間と帰宅時間が不規則だったということが判明した。

 この父親の開業の話は、さよりにとってはポジティブ・サプライズ。彼女は、仕事を辞めた理由がわかって安堵の表情を浮かべている。

「そうですかあ、それはおめでとうございます。オープンしたら私も食べに行きますね。楽しみだなあ。じゃあ、倉持、なおさら頑張らないとな!」

 さよりは、うれしさで涙ぐんでいた。



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