惨劇の真相
オリバーが差し出してくれた紅茶を、おずおずと受け取る。
柔らかく湯気を立ち上らせる液体を口に含むと、ふんわり優しい蜂蜜の味がした。
「……おいしい…」
「それはよかったです。とっておきの茶葉をお出しした甲斐がありました」
喉を通って、熱が胃に到達する感覚を噛み締める。
こんなに幸せな気分になれるのは久々だなと、ここ数ヶ月の自分の運の悪さに自嘲しながら考えていると、ベッドの淵に腰掛けていたクレアがシェリルの背中を軽く撫でてくれた。
寄り添うように触れてくれているおかげで、目覚めた直後に感じていた恐怖なんてどこかに飛んでいってしまっている。
オリバーが出してくれた椅子に腰掛け、それでも少しベッドから距離を置いてくれているウィリアムのほうに視線を向けると、彼は少し考えるそぶりを見せながらゆっくりと口を開いた。
「……辛いだろうが、一昨日の夜のことを聞いても良いだろうか」
「………はい」
「もちろん、無理に全てを話してほしい訳ではない。……ただ、君は被害者で、加害者は今うちの地下牢に入れている。当事者から話を聞かないと、どうすることもできない」
「大丈夫、です。わかっています」
「もし、言いたくないことや思い出したくないことがあったら、遠慮なくそう言って。無理だけはしないでね」
「ありがとうございます、クレアさん」
最大限の気遣いを見せてくれる三人の視線を受け、落ちかける視線をなんとか上に持ち上げる。
ぐっと眉間に皺を寄せてこちらを窺うその視線が、こちらを威嚇するものではないと今ではわかるから、その誠意に応えたいと強く思った。
「……数ヶ月前から、私はトゥアールという街のギルドでパーティーを組んでいました。私は生まれつき魔力が少なくて、あんまり役には立てなかったんですけど…でも、魔力が少なくてもできる調合はなんとかできるから、なんとか頼み込んでパーティーに入れてもらったんです」
トゥアールの街は、キーストン領に隣接する王家直轄領の中にある、小さな街だ。
ギルドの規模も小さく、舞い込んでくる依頼も小さいものがほとんどだったが、なんとか食べていくことくらいはできた。
特にシェリルは、魔力が少ないことを気にかけてくれた村常駐の薬師のおばあさんが、小さい頃から調合を教えてくれていた。
家にいても邪険にされるばかりだったシェリルにとって、当時毎日のように通って教えてもらっていたその知識が、13歳で家を追い出されてから生きていくための命綱のようなものだったのだ。
トゥアールの街で入れてもらっていたパーティーでも、調合の力でなんとか役に立てるから、ということで、無理に頼み込んで仲間に入れてもらった。
とは言っても、小さな街なのでパーティーを組んで仕事をすることなんてそうそうない。
まさに一昨日が、そのパーティーでの初仕事だったのだ。
「トゥアールのギルドで受けた依頼は、キーストン領の外れにある洞窟の魔物の巣を壊滅させてほしい、というものでした。聞いていた魔物のレベルは、その時のパーティーメンバーであればなんとか倒せるくらいだったので、私も後方支援組として一緒に向かって……無事に討伐も終わったんです」
「あら、そうなの?失敗した訳ではなくて?」
「はい、聞いていた通りのレベルの魔物しかいなくて、回復ポーションとかも思ったより使わなくて……ただ、その依頼から帰る途中で、他のパーティーに襲われたんです」
そう、シェリルたちを襲ったのは盗賊や魔物たちではなく、同業者である他のパーティーだったのだ。
「見覚えのない人たちばかりだったから、別の街のギルドに所属している人たちのはずです。私たちの荷物を漁っていた人がいたので、多分装備目当てだったと思うんですが……パーティーの中に女は私一人で、狙われた隙に荷物を持って他のメンバーは逃げてしまって……最初はなんとか私も、と思ったんですが、……あ、足を狙われて、動けなくて、それで………」
カタカタと小さく震え始めた私に気づいたクレアが、ぐっと力を込めて抱きしめてくれる。
そのまましばらく背中をさすってくれたおかげか、しばらくすると震えも収まってきた。
それでも心許なくて、爪が食い込むほど強く両手を握りしめて俯くと、ふっと影に覆われ、大きな手が柔らかく重ねられた。
壊れ物を扱うかのような扱いに、ぎゅっと胸が苦しくなる。
「………もういい、十分だ。話してくれて、ありがとう」
「………ぅ…っ」
「……オリバー、奴らの所属ギルドの確定を。俺は地下牢に行く」
「ほどほどにお願いしますよ、主」
「それは相手次第だ」
ぽんぽん、と頭を撫でられ、そのまま影が遠ざかっていく。
そしてオリバーに向けられた声は、随分と冷たいものに聞こえた。
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