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ヘタレ領主とへっぽこヒーラーの恋  作者: 小鳥遊 ひなた
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楽しい時間の始まりです





あまりにも唐突だったので、シェリル自身その言葉を理解するのに少し時間を要してしまう。

しかし、耳から届いた言葉が脳に到達し、脳内で処理されるや否や、自分でもびっくりするくらいに顔が赤くなってしまったのがわかった。

周囲に聞こえたかどうかはわからないが、間違いなく自分の中では「ボンっ!」という破裂音が鳴っている。

絶句したまま顔だけ茹でだこのようになってしまったシェリルの様子に、自分が何を口にしたのかようやく気づいたのだろう。

それまで目の前で呆けた様子だったウィリアムも、慌てて右手で顔の半分を覆ってしまう。

しかし、短髪の黒髪から覗く耳が真っ赤になっていたことは、シェリル以外の全員が気づいてしまっていた。

二人の間に流れる面映い空気に、マリーとキアラが生温かい視線を向けたまま無言を貫き通す。

そうしてしばらく無言の時間が続いていたのだが、ようやくウィリアムの咳払いで沈黙が破れた。

きょろきょろと視線をうろつかせていたが、覚悟を決めたように金色の瞳がシェリルを見据え、すっと手が差し伸べられる。



「……すまない、取り乱してしまった。そろそろ時間が来たから迎えにきたが…エスコートをさせてもらっても?」

「えっ、あっ、はい!……あの、よろしく、お願いします…」



腰を折り曲げて美しい礼を取りながらお伺いを立てられ、慣れないその仕草にシェリルは慌てたように返事をし、おずおずと差し出された手を取った。

ほっとしたようにその手を腕に絡めさせ、先ほどまでの態度が嘘のようにマリーとキアラへ視線を向ける。



「ご苦労だった。…お前たちも、今宵は出席するのだろう?身支度を整えてくると良い。シェリルは私がこのまま会場まで連れて行く」

「ご配慮いただき、ありがとうございます。お言葉に甘え、失礼致します」



そうして二人が部屋から出ていくのを見届けて、ウィリアムが再びシェリルの方を振り返った。

まだ少し赤みの残る目元は壮絶な色気があり、そういった経験が皆無のシェリルも思わずどきりと胸を鳴らしてしまう。

目を眇めるようにしながら口元をもごもごと動かしていたかと思うと、掠れたような低い声で囁かれた。



「……先ほどまでの服もとても可愛らしかったが…今の君は、本当に美しい。見違えてしまって、驚いたよ」

「あ、あの……っ」

「今の君を他の奴らに見せてしまうのは惜しいが、今日の会の主役は君だ。…私から、絶対に離れてはいけないよ?」



ゆるくカールを描く髪の一房を掬い上げられ、手触りを楽しむように弄びながら言われてしまえば、シェリルはもう無言でこくこくと首を縦に振ることしかできない。

せっかくマリーに施してもらったメイクが落ちてしまわないことを祈りながら、頬の熱を冷ますように空いた片手でぱたぱたと仰いでいると、頭上からくすりと忍び笑いが漏れ聞こえた。

こうなっている原因は彼なのに、と、不満そうに軽く睨みあげると、今度こそ声を上げて笑われてしまう。



「少し意地が悪かったかな。…さあ、行こうか」



そうしてシェリルは、ウィリアムに連れられて支度部屋を後にしたのだった。






********************






会場として用意されたのは、屋敷の一階にある広い一室だった。

元々はダンスホールとして使用されていたそうだが、ウィリアムが当主になってからは、もっぱら兵士たちの打ち上げ会場や使用人たちの小規模な慰労会会場として利用されるのみだったらしい。

そういう事情もあって、シェリルが部屋に入った時には、兵士たちも屋敷の使用人たちも、リラックスした様子で食事や会話を楽しんでいるようだった。

がちゃり、と重厚な音を立てて開かれた扉に、室内にいた全員の視線がウィリアムとシェリルに集まる。

シェリルがざっと視線を向けた先では、ほとんどの人が普段と変わらない姿だったので、自分だけがこんなにドレスアップしていることに改めて羞恥心が襲ってきた。

今すぐ背を向けて帰りたいと思うのに、ウィリアムの手がシェリルの腰に手を回しているせいでそれもできない。

どうしよう、と一瞬パニックになりかけたが、それを打ち破ったのが、聞き慣れたハナの第一声だった。



「すっごい、シェリルちゃんめっちゃ可愛い!!!」

「っ…あ、いや、あの…」

「マリーさんとキアラが張り切ってたのはこれだったんだね!すごく似合ってるよ、シェリルちゃん!」



にっこりと、全く他意のないことがわかる満面の笑顔でそう言われて、すっとシェリルの肩から力が抜ける。

それを見計らったかのように、ハナの後ろからひょこっと顔を出したマークも、驚きと共に笑顔でシェリルの装いを褒めてくれた。

マークが声をかけたのを皮切りに、それまで遠巻きに見ていた兵士たちがわっとシェリルの元に寄ってくる。

口々に自己紹介をしてくれて、ある人はシェリルが作ったポーションの出来についての意見をくれ、ある人はシェリルの新しいポーションのレシピを賞賛してくれる。



「こら、お前たち。そんなに一度に自己紹介されても、混乱するだけだろう」

「えーだって、総長ばっかりずるくないっすか?」

「そうっすよ!シェリルちゃんに話しかけるチャンスなんすから、総長は邪魔せんでください」

「……お前ら…」

「あっ、あのっ!大丈夫です、ウィリアム様!私、自己紹介してくださった方、全員ちゃんと覚えられますから!あなたたちも、さっきお話ししてくださいましたよね?えっと…ジェームズさんと、ハウルさん」

「え……」

「すっげー!さっき話したばっかりなのに!?」

「俺は?シェリルちゃん、俺は!?」

「え、えっと…!」



不穏な空気が流れたのをどうにかしたくて、慌てて会話に割り込んでしまったが、それがなぜか余計に彼らを興奮させる要因となってしまったらしい。

我先にとシェリルに自分の名前を問いかける長蛇の列ができてしまったのを、ウィリアムは額に青筋を立てながら見つめ、シェリルは苦笑いと共にその列を捌いていくのだった。







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[一言] シェリルちゃん、ホントいい娘だ! ウイリアムさん気が気でない!
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