表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ヘタレ領主とへっぽこヒーラーの恋  作者: 小鳥遊 ひなた
47/53

天真爛漫なだけではありません(キアラ視点)

今回はマリーと共にシェリルの侍女として仲良くしていた、キアラちゃんのお話です。

今回、少し暴力的な描写、性的な描写がございますので、苦手な方はご注意ください。







「ははっ…!……お前、本当にいい女だよなぁ……」

「っふふ…そう?……だぁめ、そんな手つきで触っちゃ…我慢できなくなっちゃうでしょぉ…?」



———シェリルが、必死で大量の紙束と格闘していたその頃。

屋敷から遠く離れたザグドの街で、キアラは裏通りにある一つの酒場ででっぷりと膨らんだお腹を揺らして下品に笑う男の肩に、しなだれかかるように身体を寄せていた。

屋敷内では常にゆるく三つ編みにしているハニーブロンドの髪は、今日はアップスタイルにして少しだけ後毛を垂らす程度に留めている。

そうすると、オリバーが太鼓判を押す色気たっぷりのうなじが露わになり、自慢の身体つきが最もいやらしく映るのだそうだ。

化粧も、普段とは全く異なる濃い目のもので、特に真っ赤に塗られた唇はつやつやと光っている。

目の前の男性以外にも、ちらちらとこちらを伺う男性たちの目線を存分に感じながら、キアラは目元を赤らめながら、潤んだ瞳で隣の男に微笑んで見せた。

先ほどから促されるままに酒を煽り、顔を真っ赤にして上機嫌でキアラの尻を撫で回しているこの男が、今回のターゲットだと言われている。

このザグドの街で最も力を持つと言われるダード商会、その会長の息子…テッドだ。


キアラが所属する諜報部隊の調査によると、シェリルの一番の脅威となりうるのがこのダード商会だった。

初めはトゥアールのギルド長が最も怪しいと踏んでいたが、彼も結局、ダード商会の操り人形の一人だったのだ。

最初にシェリルの能力に気づいたのも、それを悪用して不法な利益を得ていたのも、シェリル自身に「自分に価値がない」と思い込ませていたのも。

しかし、さすがというべきか…敵もそう簡単には尻尾を現すことはなかった。

特にダード商会の会長の周囲は非常に守りが固く、そちらからは一向に成果が得られそうにない。

そこで白羽の矢が立ったのが、彼の息子であるテッドだったのだ。

父親と違い、テッドは親の七光の典型のような男で…商才もなければ、人をまとめ上げて引っ張っていくような才覚もカリスマ性もない。

ただ父親の威光を傘にきて威張り散らしているだけの男で、そのくせ将来自分のものになることが確定している商会の内情は何でも知りたがる。

商会の人間に煙たがられていたのは明らかだったが、会長の息子である以上、表立って口出しをすることもできないのだろう。

結果、彼は知らない間に商会の弱点に成り果ててしまっていたのだ。

とはいえ、流石にそんな人間を放置するほど、商会側も愚かではないはずなのだが…。



「…ねぇ、そういえば…今日はあのこわーいおじさま、いらっしゃらないのね?」

「…ん?親父のことか?それともライドのこと?」

「ふふっ…あなたの隣にいっつもいる、顰めっ面のおじさまのこーと。私、あの人苦手なのよーぅ。いっつも睨んでくるんだもの」

「そうなのか?今度きつく言っておいてやるよ…でも、今日はあいつはいないぜ」

「えー?そんなこと言って、どっかで見張ってたりするんじゃないのぉ?」

「いねーよ。あいつは今日、キーストン領に行ってっからな」

「……え?どぉして?」

「なんか、前に逃げちまった金づるを見つけたから、捕まえに行くんだと。ったく…そもそも逃がすなってんだよなあ。無能はこれだから」



下卑た嗤いで、せっかく父親につけてもらっていたお目付け役を貶すテッドの様子に、自分でも吐きそうになるほどの甘ったるい声で媚びながら、キアラは酒場の隅に潜む仲間に、密かに合図を送った。

仲間内でしかわからないサインを送り合った後、仲間が酒場を後にするのを横目で見ながら、キアラはこの後どうやってこの場を逃げ出すか、に頭を巡らせる。

普段であれば、身体の一つや二つ喜んで差し出すが、今回のターゲットはちょろい上、言葉の端々に下衆な性根が透けて見えるような物言いをするので、とてもではないがそんな気にはなれなかった。

もちろんそんな本音は(おくび)にも出さず、キアラはねっとりと腕をテッドに絡みつかせながら、もう少し情報を引き出せないかと水をむけてみる。



「金づる?…そんなにお金になるような人なのぉ?」

「ああ、そりゃもう…逃げ出しちまう前までは、そいつが商会の売上の約3割くらいの売上を出してたらしいからな…次は絶対に逃さねえ。俺が直々に、教育し直してやるつもりさ」

「……教育?」

「そう。部屋に閉じ込めて、爪を一枚ずつ剥がして……ははっ、楽しみだなあ…そいつ、女なんだぜ。っつっても、お前とは比べ物にならないほど、貧相な身体してんだけどさ。たまにはそういうのも、()()()()()じゃん?」



何を想像したのか、にやにやといやらしい嗤いを隠しもしないテッドに、カッと頭に血が上りそうになる。

思わず殴りかかろうとしてしまった手を何とか抑え込んで、キアラはテッドに濃厚な口づけをしながらこっそり、彼のグラスに薬をぽとりと落とした。

横目で確認しつつ、薬が完全に溶け切ったのを確認して、拗ねたような表情を作りながら唇を離す。



「……もぉ。私の前で、他の女の話なんてしないで」

「っはは……なんだよ、嫉妬してんのか?心配すんなよ……お前みたいな上玉、逃がすわけないだろ…?」



キアラの言葉に満足そうに笑いながら、一気にグラスを煽るテッドの頬に、満足したようにもう一度口づけを落とす。

今度は唇でなかったことに不満気な表情を浮かべた彼が、忙し気にキアラの肩を抱き興奮した様子で耳元に囁きをこぼした。



「……なあ、今日こそ俺の部屋…来てくれるよな?」

「えぇ……?でも、今日もお父様、いるんじゃないの……?」

「大丈夫だって、今日は親父も会合で朝まで飲んでるからさ…な?」



言いながら、我慢しきれないように首筋に吸いつこうとしてくるテッドを何とか宥め、そのままダード商会に向かう。

そうしてテッドが自室のベッドで目覚めたときには、キアラの姿は忽然と消えていたのだった。






評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ