それを世間ではデートと呼びます
もう恒例と化してしまいましたが…今日も遅れてしまい、すみません…(T^T)
シェリルが歓迎会を了承したこともあり、それからあれよあれよという間に話が進められた。
とはいえ、必ずウィリアムが出席できる日程で行うことを条件とされているということもあり、遠征や視察の予定などを考慮した結果、シェリルに歓迎会の打診があってからちょうど20日後の週末に開催されることになったのだった。
シェリルはといえば、劇的に忙しい2週間を乗り越えて、書類をまとめ終わったその夜に、高熱を出して倒れてしまった。
これまでにない仕事量に、取り組んでいる間は高揚感で何も感じていなかったのだが、おそらく疲労が溜まっていたに違いない。
全てが終わった、という達成感と共に生じる気の緩みで、一気に体が疲れを思い出したらしい。
シェリルが倒れたと聞いて、視察のために遠征していたはずのウィリアムが脅威的なスピードで屋敷に戻ってきたが、すでにもう誰もそのことについて疑問を感じる者はいなかった。
そのまま意識のないシェリルを抱えて屋敷で療養していた部屋に連れて行き、翌日意識が戻るまで自ら看病していた…と目覚めた後に聞かされた本人は、嬉しいやら申し訳ないやらで、毛布に顔を埋めることしかできない。
そんなプチ騒動もありつつ、王都からの回答があるまでは特にこれ以上することもない、ということだったので、シェリルは久しぶりに穏やかな日々を過ごしていた。
ただし、通常業務に戻ったからといって、シェリルについていた護衛の二人の任が解かれることはなかった。
ウィリアム曰く、『シェリルの功績が認められ、身元がしっかりするまでは用心するに越したことはない』とのことだ。
何に用心するのかはさっぱりわからないが、その点について深く考えることはもうやめた。
きっと、自分にはわからない色々な事情があるのだろう、と呑気に構えてしまうのは、今の生活がすっかりなじんで、心地よいものになったからかもしれない。
最初の頃は、ウィリアムをはじめマリーやキアラ、クレアやハナといった、限られた人たちとしか接する機会がなかったが、書類作成の業務を通して救護隊のメンバーとも話す機会が増え、通常業務に戻ってからは、少しずつ兵士の人たちとも交流するようになった。
もちろん大柄な男性と一対一で話をするのはまだ怖いが、周囲には必ずリヴァイやマークがいてくれる。
そういった安心感も、シェリルが交友関係を増やせる良いきっかけになっているのかもしれなかった。
熱を出して倒れてからは、ウィリアムの心配性がまた顔を出してしまったのか、遠征で外に宿泊することがなければ、毎日必ず顔を出してくれる。
その事実も、シェリルの心を和らげていたことは間違いない。
そうして幸せな日々を過ごしているうち、とうとう歓迎会の日がやってきた。
歓迎会に関しては、シェリルは一切何も聞かされていない。
リヴァイやマーク、ハナ、マリーなど、誰に聞いても「教えられない」の一点張りで、「楽しみにしていて」と言われるだけだったからだ。
だからこそ、シェリルは歓迎会の日が近づくにつれ、そわそわと落ち着きがなくなっていった。
歓迎会なんて、これまでの人生で一度も経験したことのない大イベントだ。
毎日指折り当日までの日を数え、寝る前には想像するだけで胸が高鳴り、頬の紅潮を抑えることができなかった。
そんなだったから当然、シェリルは歓迎会の朝から全く落ち着くことができないでいる。
意味もなく部屋の中をうろうろし、窓の外を見てはため息をついて、また部屋をうろつく。
そんな時間を過ごしていると、突然部屋のドアがコンコン、とノックされた。
突然の予期しない音にびくんっと身体を飛び上がらせて、慌てて小走りで扉に向かう。
「は…はいっ、どちらさまで…」
「おはよう、シェリル。…すまない、驚かせただろうか?」
そのまま外を確認もせず扉を開けたシェリルは、その場で固まってしまうことになる。
なんとそこにいたのは、いつもと全く異なるラフな姿をしたウィリアムだったからだ。
いつもは全身黒づくめなのに、今日は真っ白なシャツを羽織り、紺色のスラックスに濃茶のブーツを合わせている。
とてもシンプルなはずなのに、とにかく体格の良いウィリアムに、その装いはとてもよく似合っていた。
軽く開いたシャツから見える胸元になんだかどぎまぎしてしまって、先ほどまでの高揚感とは違う理由で、頬が赤く染まっていく。
軽く目を見開いたまま動かなくなってしまったシェリルのことを、ウィリアムは驚いたせいだと思ったようだが、単純に見惚れてしまって声が出せなかっただけだ。
しかし、心配そうに腰を屈めて顔を覗き込まれてしまえば、そのまま硬直し続けるわけにもいかなかった。
ぱたぱたと胸の前で両手を振って、壮絶な色気を放っているウィリアムからなんとか距離を取ろうとする。
「いっ、いえ!はい、あの…まさかウィリアム様がいらっしゃるなんて、思ってなくて!びっくりしてしまって、すみません…!」
「いや、いい。悪かったな」
「いえ…あ、あの。今日はどうしてこちらに?」
なおも謝ろうとするウィリアムを押しとどめて無理やり話題を変えると、ウィリアムはその言葉ににやりと唇の端を上げた。
「軍の奴らに言われてな。今日は夕方になるまで君を外に連れ出してほしいらしい」
「……え…っ?」
「会の準備があるんだろう。私は君のエスコート役に任命された。という訳で、これから少し出かけようと思うが、良いだろうか?」
「えっ、おでかけ?ウィリアム様と、ですか?」
「そうだ。それとも…私とでは、不服か?」
少し拗ねたようにそう言われてしまえば、シェリルに否やの返答などできるはずがない。
少しだけ廊下で待っていてもらうようにとお願いし、慌てて簡単な化粧を施すと、動きやすいお気に入りの服装に着替えて、シェリルはおずおずと部屋から出た。
「お…お待たせ、しました…」
「いいや、突然訪ねた私が悪かったからな。それにしても…」
まじまじとシェリルを見下ろすウィリアムの視線に、身体がきゅっと縮こまる。
しかし、その後頭上から降ってきた満足そうな声音に、思わず耳まで真っ赤に染まってしまった。
「……うん、良いな。君は普段から可愛いが、今のような休日の装いは初めて見た。とてもよく似合っている」
「……っ…!」
「さあ、それでは行こうか。シェリル」
そんなシェリルに気づいているのかいないのか、当たり前のようにエスコートのための手を差し出される。
これまで何度もくり返されてきたものの、未だに慣れることのできないウィリアムの掌の熱を感じながら、シェリルはそっと手を取り、歩き出した。




